第63話:密談(後編)
「特別なことは、何もしていないよ」
クリスが笑って、ワイングラスをクルリと回した。
「僕はクロスリーの店に、一緒に行っただけだ」
「……そのような名前の者は、貴族の中にはおりませんが」
「平民だからね。大通りに店がある。店主は革命軍の仲間の1人だ」
「はあ……。それだけですか?」
フィリクスは怪しむような目を、2人に向けた。ジュリアがフフンと、鼻を鳴らして笑う。
「革命を起こすということは、今の状況に満足していないということでしょう? そんな方々の声に耳を傾けている姿を間近で見れば、親しくなれるのも当然かと」
「……はあ、なるほど」
フィリクスはまだ、納得してはいなかった。そんな彼に、クリスは穏やかな笑みを向ける。
「のけ者にされるのが気に入らないなら、次は君も一緒に行くかい? 僕たちは構わないけれど」
「では、ぜひ」
フィリクスは迷わず、即答した。彼の瞳が、月明かりの下でキラリと輝く。
「革命軍の情報を集めておくのは、私にとっても大切なことですからね。あなたが協力してくださるなら、助かります」
「じゃあ、そういうことで。……僕たちはそろそろ広間に戻るよ」
クリスは笑みを崩さず続けた。彼はフィリクスから目を離さず、ジュリアの手を引く。
「ずっと君とバルコニーにいるわけにもいかない。メルが僕たちを気にしているんだ。そろそろ彼に、顔を見せておかないとね」
「……あの男ですか」
フィリクスの目が細められる。
「彼のことは、私も警戒しています。油断できる相手ではありませんから」
「メルは未来の、グラファ公爵になるからね。君がブランソン家を継いで、2人目の公爵になったとしても、それだけで戦える相手でもないし」
その言葉に、フィリクスは無言の肯定を返した。クリスは彼をバルコニーに残して、ジュリアと共にパーティー会場に戻る。
「……もしかして、このゲームのラスボスはお兄様なのですか?」
戻る途中で、ジュリアが聞いた。クリスは少し、考えこむ。
「……そうかもしれない」
しばらくしてから、彼は小さな声でつぶやく。会場にいたメルヴィンが、笑顔でこちらに近づいてきていた。
「メルは愛する人の笑顔より、泣き顔のほうが好きなんだ」
彼が来る前に、クリスはそんな言葉を落とす。ジュリアは嫌な予感がした。
(てことは1番手ごわいのは……)
近寄ってきたメルヴィンは、柔らかな笑みを浮かべている。だが、その心のうちまでは、彼女にも読めない。
(気をつけておいた方がいいな)
そう思って、ジュリアはさり気なくメルヴィンとフィリクスの間に入る。パーティーはその後も、問題なく続いた。




