第60話:パーティー(後編)
「それはそうですよね。恋愛対象も、女性なのでしょう?」
気楽な気持ちで、ジュリアはそう言う。けれど、クリスは。
「……ええと、それは」
口ごもって、目をそらした。
「もちろん、君のことは大好きだよ」
「嘘!」
彼女は思わず叫んでしまった。そして目の前の男に詰め寄る。彼は間近に迫った厳しい顔を見て、目を細めた。
「本当だ」
表情を引きしめて、クリスは真剣な声をだす。
「前にも言っただろ? 僕はこのゲームに出てくる、みんなのことが好きなんだって。だからみんなを幸せにしたくて、そのために頑張っているんだ。誰かの個別ルートに行きたいとは、思ってないよ」
「……そうですか」
ジュリアはまだ納得していないようだったが、それでもなんとか飲みこんで、クリスの手を引いた。
「では、大広間に行きましょう」
彼はそれに逆らわず、黙って彼女と共に歩く。王宮に入って、2人はパーティー会場に向かった。
大きなドアをくぐった先では、広い空間をシャンデリアが照らしている。部屋の端には長机があって、その上には豪華な料理と、複数のグラスが置かれている。
「やあ、クリス」
会場にいたメルヴィンが、2人を見つけて声をかけてきた。彼は片手にワイングラスを持っている。
「先に楽しませてもらっているよ」
「ああ、じゃあ僕も……」
クリスは長机に近づいて、そこに置いてあったグラスを取った。ジュリアは彼の横に立って、広間を見渡す。遠くのほうに、黒髪の男が1人で立っている。
「フィリクス様も、来られていますね。挨拶してくるべきでしょうか」
「うん? ああ、まあ……そこは好きにするといい。彼はブランソン家の後継者だが、大人しく目立たない男だからね。積極的に関わる必要はないと思うよ」
つい、彼の名前をつぶやいたジュリアに、メルヴィンが穏やかな調子で返す。フィリクスの本性を知らずに話す兄を見て、ジュリアは深いため息をついた。
「……そうですね。後でクリス様と行ってきます」
その言葉に、クリスは無言で笑みを深める。周囲にいた令嬢たちが、彼の穏やかな笑顔を見てざわめいた。
「やっぱり素敵……」
「ああ、私も公爵家に生まれたかったわ。そうすれば、あの方と……」
「でも、ジュリア様もお似合いよ」
「そうよそうよ。それにお2人は昔から、一緒にいらしたのだもの。どちらにせよ、私たちでは勝てないわ」
ヒソヒソ声で交わされる会話が、少しだけジュリアたちの耳に届く。ジュリアは眉をひそめたが、クリスはまったく気にしなかった。横あいから、声が聞こえる。
「なんと言われてもいいさ。グラファ家の権勢は揺らがないから」
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