第59話:パーティー(中編)
「大丈夫ですか?」
ジュリアは反射的にクリスの手を取る。青ざめた顔をしていた彼は、彼女に触れられたことで少しだけ落ち着いた。
「……うん。ごめんね、ありがとう」
「どうしたんだい、クリス。何か心配事でもあるのかな?」
どこか嬉しそうな顔で、メルヴィンが声をかけてくる。その様子を見て、ジュリアはキッと彼をにらみつけた。
「お兄様。クリス様が苦しんでいらっしゃるのに、その言いかたはないのでは?」
「いいよ、ジュリア。気にしないで」
クリスティアンは、かろうじて表情をとりつくろう。明らかに無理をしていると分かる顔で、彼はそれでも笑みを作った。
「今日は特別なパーティーだからね。休むわけにはいかないよ」
「それはそうだ。……ジュリアも彼を見習うといい」
楽しそうに、メルヴィンがそれを後押しする。ジュリアは不満げに頬を膨らませていた。馬車が王宮の前で止まり、3人はゆっくりと外に出る。
「さて。では、名残惜しいが……。僕は先に行かないとね」
そう言って、メルヴィンはパーティー会場である大広間のほうに向かっていった。残された2人は、顔を見合わせて話をする。
「本当に、行くんですか」
「そうだね……」
クリスはそこで、声をひそめた。
「……僕はこのゲームをクリアしたいんだ。昨日のイベントは、僕が知らないものだった。メルの態度も、おかしいし……」
彼はとても真剣だ。そのことに、ジュリアはなんだか気が抜けてしまった。
「……もしかして、主人公のような扱いをされているのでは?」
「そうなんだよ。でも原因が分からなくて」
「あなたはポウムがやったことを、全て自分でやろうとしているのでしょう? それが原因だと思いますが」
ジュリアは少し、呆れたような声で告げた。クリスは数回、まばたきする。
「……そうか」
しばらくしてから、彼はようやく口を開いた。
「どうしよう、僕……。そんなつもりじゃなかったのに」
「素直に喜べばいいでしょう。乙女ゲームをやりこんだということは、主人公になりたかったのでは?」
ジュリアはクリスを見つめて言った。だが、彼は首を横に振る。
「そういう人もいるかもしれない。でも僕は違うんだ。……この物語には、確かに救いはなかったかもしれない。それでも僕は大好きだった。この世界と、そこに生きる人たちが。だからゲームをやりこんだんだ。ポウムになりたかったからじゃない」
その答えに、ジュリアはとても驚いたが、同時に納得もした。彼女は、彼の中身が男だと思いこんだままだったから。




