第57話:シリルの秘密
「ありがとう。じゃあ、これで」
クリスは重い金貨袋を机に置く。店主がニマニマと笑って、それを開いた。
「これはこれは。いつもありがとうございます」
袋に詰まった金を見ながら、彼は手もみをしている。クリスは長居する気はなかったので、袋を残して立ち去った。
ジュリアとシリルも、大人しく彼についていく。グラファ邸に帰るまで、しばらく無言の時間が続いた。
「……今日は泊まっていかれませんか?」
屋敷の前で、ジュリアはクリスに向かって聞く。振り返った彼女を見つめて、彼は困ったような顔をした。
「迷惑じゃないかな」
「そんなことはありません。お兄様も、あなたのことを気に入っているようですし」
「でも、明日はパーティの日だよ?」
「だからこそです。……エスコートしてくださるのでしょう?」
ジュリアはまったく引かなかった。その押しの強さに、クリスは結局、諦めてしまう。
「……分かりました。では、お言葉に甘えて」
「オレは帰る」
そこで初めて、シリルがしゃべった。彼はクリスから目を離さず、低い声で話を続ける。
「別にお前らを非難してるわけじゃない。あの場に行くことを決めたのはオレだ。ここに入らないのも、お前らが思ってるような理由じゃない。ただ、あの男と顔を合わせたくないだけだ」
「あの男、ね……」
クリスはジッとシリルを見つめる。
(やっぱりシリルは、メルヴィンと会ったことがあるのかな。……そんな設定はなかったと思うけど)
目の前にいる男は、真剣な顔をしていた。彼はクリスから目を離さず、古びたペンダントを差し出してくる。
「これを持ってけ。気休めかもしれないが、ないよりはマシだ」
「…………えっ」
クリスはぽかんと、口を開けた。つい、ペンダントを受け取って。彼はひび割れた声を出す。
「これ、君の大事な物なんじゃ……」
「だからお前に渡すんだ。もっともお前には、必要のない物かもしれないが」
「そんなことないよ。……ありがとう。つけておくね」
クリスはそっと、ペンダントを首にかけた。その姿を見て、シリルはどこか、安心したような顔をする。
「……ああ。じゃあな、おやすみ」
短い言葉を残して、彼は闇に身を隠す。その足音は、静かな夜道でもほとんど聞こえなかった。
「……それは?」
だからジュリアがペンダントについて聞けたのは、彼と別れて屋敷に入った後だった。シリルは考えこむような表情で、ペンダントの先についているロケットに触れる。
「これは、教会の前に放置されていた彼が、たった1つ持っていた……。彼の家族の、写真入りのペンダントだよ。……それ以上のことは、僕の口からは言えない」
「……そう、ですか」
ジュリアはそれ以上の追求ができず、部屋に入っていく彼を見送るしかなかった。
(どうして、俺はアネキに、もっとちゃんと聞いておかなかったんだろう。……いや、聞いてても同じか。アネキはFDなんて持ってなかった)
閉じた扉は、まるで彼との間に空いた、心の距離を示すようで。彼女は1人で、歯を食いしばった。




