第54話:祭りの前・市場(中編)
「これでいいのか?」
しばらくしてから、砕いた氷に砂糖水をかけた物を持って、シリルが階段を上がってきた。机に置かれた食べ物は、どれも綺麗に1人分だけ残されている。
「……なんでそんなに気を使うんだ」
口調はキツいが、彼の表情は穏やかだ。クリスはそのことにホッとしながら、氷の欠片を口に入れる。かき氷とは似ても似つかないその味は、期待したものとは違っていた。
「……これじゃない」
彼の横で、ジュリアが不満そうに言う。
「ねえ、他の機械はともかくとして、たこ焼き器くらいは作れませんか? 丸いくぼみをつけた鉄板なら、なんとか……」
「タコもいなくはないだろうしね。単にこっちだと、食べる習慣がないだけで」
「何の話をしてるんだ」
2人の会話に、シリルが割りこむ。彼は自分のために残されていた焼き魚をかじりながら、目を細めて2人を見た。
「夏より作りやすいだけで、今の時期でもそれだけの氷を用意するのは大変なんだぞ。お貴族様には分からねえだろうが……」
「もっと美味しくできるってことだよ」
クリスは怯まず、胸を張った。
「まず、氷は砕くんじゃなくて、もっと細かく削るんだ。上にかける水も、砂糖を入れるだけじゃなくて、味をつけた方がいい。今度、僕が見本を作ってあげるよ」
自信に満ちた表情で言いきる彼を見て、シリルは呆れ顔になった。だが彼は、それ以上は何も言わず、魚を食べ進める。
(……こいつ、ツッコむのを諦めたな)
その姿を見て、ジュリアは察した。シリルはクリスのことが気に入っているから、彼が何を言っているのか分からなくても、飲みこむことにしたのだろうと。
(まあ、それならそれでいいが……)
外から人の声が聞こえてくる。太陽は昇りきっていて、窓から差しこむ明るい日差しで、部屋の中は照らされていた。
「……明日は王宮でパーティーですね。私は、ここで気楽に過ごす方が好きなのですが」
少しして、口の中で小さくなった氷を転がしながら、ジュリアはポツリと呟いた。クリスも遠い目をして、口を開く。
「こうしてわざわざ、顔を隠して移動するのも面倒だしね。いつか、堂々とここに来られるようになるといいな」
(それはお前が王になったくらいで、どうにかなるとは思えねえが……)
笑い合う2人を見ながら、シリルは黙って考える。
(ここのヤツらには、オレが誰と組んでるのかも言ってねえし、何をするのかも明かしてねえからな。革命を起こすのは、オレのエゴでしかねえ)
貴族と平民。その差を恨まない日は、彼にはなかった。けれど。




