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悪役令嬢(男)と攻略対象(女)、理不尽な乙女ゲームの世界を変える  作者: 文字書きA


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第53話:祭りの前・市場(前編)

店主が袋(ふくろ)の口を開けて、銀貨を秤(はかり)の上に乗せる。彼は慎重に、金(かね)の重さを確認した。


「こんなもんかね」


少しして、彼は適切な量の銀貨と引き換えに、3つの焼き串(ぐし)をシリルに渡す。彼は串を受け取って、クリスたちに配った。


「気に入ったら、また来ておくれ」


店主はそんな言葉と共に、銀貨が詰(つ)まった革袋(かわぶくろ)をシリルに返す。シリルは袋を受け取って、小さくうなずいた。


「……ああ」


店主と話す彼の後ろで、ジュリアは串に刺(さ)さった肉をかじる。強い塩気(しおけ)が、口の中に広がった。


(うめー……。硬いけど)


その肉は保存のために、干(ほ)して塩づけにしてあった。歯ごたえのある干し肉を噛(か)みながら、ジュリアはそっとクリスを見る。


「美味しいね」


彼は口の中にいれた肉を飲みこんで笑った。その柔らかな表情に、ジュリアも釣(つ)られて笑ってしまう。


「そうですね」


革袋を受け取ったクリスと並んで、3人は干し肉を食べながら街を歩く。人ごみを避(よ)けて、シリルは他の出店(でみせ)を回った。焼き魚やサンドイッチ、チーズを混(ま)ぜこんだパンなどを買って、彼らはもう1度宿に戻る。


(たこ焼きとか、焼きそばとかがないのは、ちょっと寂(さみ)しいな)


2階に上がって。食べ終わって棒だけが残った焼き串(ぐし)を片付けながら、机に並んだ食べ物を見てジュリアは思った。同じことを考えているのだろう。クリスも少し、気落ちしている。


「飲み物を持ってくる」


それだけ言って、シリルは出ていく。残された2人は、顔を見合わせて苦笑を浮かべた。


「タコとか、この世界にはないんだろうな……」


「そもそも、ここにはたこ焼き器がないからね。焼きそばとかに使うソースも。似たようなソースを作ることはできるかもしれないけど、僕は材料を知らないし」


「そうだよな……」


2人同時にため息をつく。お祭りといえばたこ焼きと焼きそば。そして。


「「……かき氷」」


声が重なる。扉が開いて、シリルが部屋に入ってきた。


「……なんだ、お前ら」


2人の視線を受けて、彼は怪訝(けげん)な顔をする。クリスは真剣な表情で、口を開いた。


「ここに、氷はある?」


「……そりゃあ、時間をかければ、作れるとは思うが」


「作ってもらえないかな。氷を細かくして、甘い水をかけるだけだから」


クリスは作り方を軽く話す。シリルは黙って聞いていた。そして話が終わってから、彼はジュースを机に置く。


「よく分からねえが、氷が食いたいんだな? 少し待ってろ」


彼は首をかしげながらも、クリスの要望を伝えにいった。ジュリアは飲み物に口をつけながら、かき氷が来るのを待つ。その横で、クリスはサンドイッチを口に入れながら、穏やかに微笑んでいた。

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