第51話:祭りの前(中編)
クリスはスキップしそうなくらい上機嫌で、先を歩く。ジュリアも彼に遅れないように、早歩きでついていった。
「今日は2階の客室を借りてる。上に行くぞ」
シリルはそう言って、店に入った。店内にいる客の数は、以前に来たときよりは少ない。
「朝はあまり混まないんですね」
ジュリアは小さな声でつぶやく。接客をしていた若い娘が、3人を見て声を張り上げた。
「いらっしゃい! 部屋は2階の1番奥だよ。ゆっくりしていってね」
娘の笑顔に見送られながら、3人は入り口の横にある階段を上る。2階には長細い廊下があって、その横には4つの部屋が、同じ間隔で並んでいた。
「ここだ」
廊下をまっすぐ進んでいって、シリルは突き当たりにある部屋の扉を開ける。そこは城の客室と比べると狭かったが、以前に通された店の奥の部屋よりは広かった。
「軽い食事と飲み物を頼んでくる。お前らはここで待て」
2人を部屋に入れた後で、シリルはそんな言葉を残して、もう1度下に降りていった。残された2人はなんとなく、室内にあったイスに座る。
「……今日は市場に行くんですよね?」
「うん、そうだね。お昼になったら」
ジュリアの質問に、クリスは笑みを浮かべて答える。彼らはそれきり、無言になった。
しばらくして、部屋の外から足音が響いてくる。足音は2人分。それは、彼らのいる部屋の前で止まった。入り口の扉が開いて、先に果物の盛り合わせを持ったシリルが入ってくる。
「アンジェリカは、そこにいろ」
彼は同行者を外で待たせて、扉を閉めた。果物の盛り合わせが、机に置かれる。
「ねえ、なんでアタシをのけ者にするのさ?」
「お前が関わると面倒なことになるからだ」
外から聞こえる声には、聞き覚えがあった。酒場の娘だ。彼女は部屋に入れないことを、不満に思っているのだろう。
「……シリル。僕たちはいいから、入れてあげて」
入り口に向かって、クリスが声をかける。少しして、娘は不機嫌そうな顔をしたシリルと共に入ってきた。彼女はジュースの入った陶器のポットと、3人分のコップを持っている。
「ありがとね。ええと……お兄さんで、いいのかな?」
「うん」
「お兄さんは、旅人さん?」
「そんなものかな。ここには1度、来てみたかったんだ」
「王都のお祭りはすごいからね。来て正解だよ、お兄さん」
2人の会話を、シリルは真顔で聞いている。娘は運んできたジュースを果物の横に置いて、苦笑を浮かべた。
「ねえ、お兄さん。シリルにあんま、無茶させないでよ。そいつはアタシを邪魔だと思ってるのかもしれないけど、アタシや父さんにとっては、シリルは身内みたいなものなんだ」




