第50話:祭りの前(前編)
春の祭りは、花の祭り。祭りの時期は、街中に花が飾られる。王宮にも、色とりどりの花が置かれた。
「おはよう、ジュリア。約束どおり、出かけようか」
祭りの前に、クリスはジュリアを迎えにいく。その横には、当然のような顔をしたシリルがいた。彼は使用人の服を着ている。
「……馬車は、使いますか?」
グラファ家を訪れた2人と顔を合わせて、ジュリアは聞いた。側には兄もひかえている。
「今日は歩きたい気分だけど……」
「おや、珍しいね」
メルヴィンが会話に口を挟んだ。クリスは笑って言葉を返す。
「そうかな? ジュリアにも楽しんでもらえるかと思ったんだけど」
「この子は歩きたがらないよ。そうだよね、ジュリア?」
話を振られて、ジュリアは困り顔になった。
「……いえ、別に……」
言葉をにごして、目をそらす。そんな妹の姿を見て、兄は不思議そうな表情になった。
「おや、そうなの? おかしいな。君はあまり、動きたがるタイプではなかったはずだけど」
「ええと、それは」
「それほど動かないからね。王宮の庭を散歩するのと同じだよ」
戸惑うジュリアを庇うために、クリスが声を上げる。彼はメルヴィンに、面と向かってハッキリと告げた。
「……そうか。君がそう思っていて、ジュリアが嫌がらないのならいいと思うよ」
メルヴィンは素直に引いて、出ていくジュリアを見送った。家を出た2人は、シリルと共に外に行く。
「こっちだ」
シリルは2人を、とある服屋に連れていく。そこは小さな店だった。
「ここはオレたちの……革命軍の仲間が経営してるとこだ。ここで着替えていけば、お前たちも目立たない」
そんな言葉と共に、投げ渡された服を受け取って。2人は着替えることにした。
「うん、ありがとう」
クリスはニコニコと笑って返す。ジュリアは少し離れた場所でドレスを脱ぎ、シンプルな服に袖を通す。そして彼女は、フードつきのマントを上から着た。
「この前と同じですね」
「そうだね」
ドレスをたたんで、ジュリアはクリスと笑いあう。そのまま2人は、顔を隠して街に出た。外の店や家の壁には、様々な花が入れられたカゴが掛けられている。
「綺麗ではあるけど、少し匂いがキツいですね」
苦笑を浮かべて、ジュリアはつぶやいた。先を歩いていたシリルが、立ち止まって振り返る。
「そうか? オレはあまり気にならないが」
「人それぞれじゃないかなぁ」
クリスは気楽な声で言った。3人が目指しているのは、以前も行った酒場だ。
「まあ、今日は気楽に楽しもうよ。僕らが貴族だなんて、誰も気づかないだろうから」
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