第49話:シリルとクリス
その日の夜。自室に帰ってきたクリスは、そこでシリルとはち合わせた。
彼はクリスの部屋の隣に作られた小部屋にいて、クリスが自室のドアを開けたときにそこから顔を出したのだ。その姿を見て、クリスは少し警戒する。
「……まだ、帰ってなかったんだ」
「オレはお前らみたいに、決まった家があるわけじゃねえからな。どこにいたっていいんだよ」
シリルは笑って答えたが、クリスはまだ安心できなかった。彼の部屋つきだった使用人は、王を殺そうとして捕まっている。
(だから今は、この部屋は使われてない。原作では、ここにシリルがいたのは、もっと先だったはずなのに……)
そのイベントは、革命ルートに入った後に起こるはずのものだ。シリルの好感度が足りない場合に、彼は王子を殺しに来る。
(……どうしよう)
ここに主人公はいない。だからどうなるか分からない。とはいえ、シリルの表情は穏やかだ。
(ナイフも持ってないし、使用人の服を着てるし……。違うところもあるんだけど)
気は許せない。そう思って、彼は側にあったイスに座る。シリルは柔らかな笑みを浮かべていたが、ぎこちなさそうなクリスを見て、その表情をくもらせた。
「……オレが、怖いか?」
「……少しだけ」
どう返していいか分からず、クリスは迷いながら返す。シリルは彼に近づいて、その足元にひざまずいた。
「オレはお前を傷つける気はない。だから安心しろ」
そう言ってシリルはクリスを見上げる。クリスは目を見開いた。
(……あれ? これって隠しイベントだったりする?)
ゲーム上では見たことのない展開。裏で設定されているという話も、聞いたことがない。そう思って、彼は首をかしげた。ひとまず、今すぐ死ぬことはなさそうだが……。
「……ええと。どうして?」
疑問は消せず、彼はそれを口に出す。シリルは真顔になって返した。
「お前はオレたちの王になってくれるんだろ。そんなヤツを、誰が殺すか」
その言葉に、クリスはようやく納得する。シリルはさらに話を続けた。
「むしろ、オレはお前が死なないように守ってやるって言ってんだ。あんま気にせず、さっさと寝ろ」
「……そうだね。そうしようか」
クリスはうなずき、立ち上がる。それと同時にシリルも立って、彼がベッドに入るのを手伝った。
「じゃあ、おやすみ」
死なないと分かったことで、クリスは安心しきって眠りにつく。シリルは黙って、ベッドに近づいた。
「……ああ、おやすみ」
スヤスヤと寝息を立てる王子は気づいていない。シリルが彼を、特別に思っていることには。彼にとっては、夜はまだまだ長かかった。




