第5話:廃ゲーマーはルート取りも上手い
クリスティアンは使用人に用意させた、王家の紋章がついた馬車に、ジュリアと共に乗りこむ。
「お屋敷まで、お送りしますよ」
彼はそう言って微笑んだ。ジュリアは小さくうなずいて、無言で彼の隣に座る。
(やっぱ王宮に泊まるの、断るべきじゃなかったか……?)
女になった彼は、姉に見せられたゲームのスチルを思いだしてため息をついた。ジュリアの実家である公爵家は、家具が全て金で作られていて、やたらとゴテゴテしていたからだ。王宮にも派手な装飾はあったが、それはまだ耐えられるレベルだった。
(今からでも戻りてえ……)
そう思いながらも、言いだすことはできなくて。ジュリアは後悔を抱えたまま、馬車に揺られた。やがて、馬車は大きな屋敷の前で止まる。
「せっかくここまで来たんだし、部屋まで送らせてくれるかな?」
クリスティアンの問いに、ジュリアは無言の肯定を返す。そして2人は、並んで屋敷の中に入った。
「おや、お帰りジュリア。遅かったね」
ジュリアと同じ髪色の青年が、2人を見つけて声を上げる。クリスティアンは彼に向かって、軽く頭を下げる。
「お邪魔しております。メルヴィン公子も、お元気そうで何よりですよ」
「やめてくれよ、クリス。ここは公的なパーティの場じゃないんだから。君にそんな態度を取られると、いたたまれなくなる」
「そうかい? じゃあお言葉に甘えようかな」
少し嫌そうな顔をしたメルヴィンを見て、クリスティアンは子供のような笑顔を見せた。ジュリアは兄と婚約者の会話を聞きながら、目を細める。
(そういや幼馴染だっけ……。そうだよな。クリスティアンだって、この国の貴族なんだ。民が苦しんでいたって、コイツは別に……)
そう思って、彼女はモヤモヤとした気持ちになる。貴族が好き勝手していることはイヤだったが、1人では何も変えられない気がして。
(女の地位も低いもんな。せめて主人公だけは守ってやろう。……主人公、どこだ?)
彼はゲームの設定を、あまり覚えていなかった。主人公の見た目も危うい。なのでとりあえず、それらしき人を探して視線を動かしてはみたが、当然見つけられるわけもなかった。
「ねえメル。今日はここで休んでもいいかい?」
「もちろんだとも。クリスならいつでも歓迎だよ」
ジュリアが無駄なことをしている間にも、青年たちの話は続く。こうしてクリスティアンは、少し形は変わったが、望みどおりの結果を得た。
(よっし! こう言えば、メルヴィンは断らないわよね。アプグラだと見られなかった場所、探検できるといいけど……)
彼(彼女)は外向きの穏やかな笑顔を浮かべながら、内心でガッツポーズする。設定にもなかった場所も、現実なら行ける可能性があると思って。




