第4話:ジュリア(男)とクリス(女)(後編)
「……君が理性的な女で良かったよ」
焦るジュリアの姿を見て、クリスティアンになった日奈は穏やかに微笑んだ。
「僕はここにいてもいいかな? 邪魔なら出ていくが」
「……お好きにどうぞ」
孝太はできるだけ、ジュリアとしての振る舞いを意識しながら答える。それはなんとか成功して、クリスティアンも特に違和感は持たなかった。
(とりあえず、婚約破棄にならなくて良かったな。でも、どうしよう。多分もうすぐ、原作が始まるはずなんだけど)
日奈は前世で原作とFDを全部クリアしただけでなく、設定資料集と画集、公式の攻略本まで読んでいた。
転生後の彼女が真っ先に見たのは、この世界のカレンダーである。今がいつなのか。そこから数えて、彼女は主人公が来る時期を割りだしていた。
(そろそろだとは思うんだけど。ポウムちゃんは、ジュリアの家の使用人だし……。私はあまり、関われないんだよね)
アプグラの主人公は、貧しい家に生まれた末っ子だ。物語が始まるのは、彼女が前に勤めていた屋敷から追い出される、春の終わりごろ。新しいメイドを探していた公爵家の募集に彼女が応募して、無事に採用されるという流れだ。
(ただ、この国の貴族は人使いが荒いからなあ……)
主人公のポウムだが、その待遇は決して良くない。むしろ悪い。こき使われてボロボロになったポウムの泣き顔にクリスティアンが見とれるのが、彼のルートの最初のイベントだというあたりで、だいたいのプレイヤーは引いていた。
「……そうだ、ジュリア。今日はこのまま、ここに泊まっていきませんか? 少し心配ですし……」
なのでクリス(日奈)としては、ポウムをイジメる人間は、できるだけ少なくしておきたくて。優しい王子様の顔をして、目の前の令嬢に提案する。だが、ジュリア(孝太)は監禁エンドがあるという話を思いだしたせいで、その提案にはうなずけなかった。
「もう平気ですわ。起き上がることもできますし」
そう言って彼女は上半身を起こし、まっすぐにクリスを見つめて微笑む。そのキリッとした顔を見てしまえば、クリスも無理にとは言えなかった。
「……そうですか。では、迎えの馬車を呼びましょう」
告げて。彼は椅子から立ち上がり、ベルを鳴らしてメイドを呼びだす。ベッドの上に座るジュリアは、テキパキと指示を出す王子の背を見ながら、目を細めた。
(女が絡まなきゃ、有能な王子様なんだよな。たった1人の後継ぎだし。……アネキが推してたのも、分かる気がする)
彼にはまだ、女になったという自覚はない。だから男と恋愛する気はなかったが、今後のためにも。彼とは仲良くするべきだと、ジュリアは1人、考えていた。




