第3話:ジュリア(男)とクリス(女)(中編)
ジュリアの中にいる孝太が、姉から聞いた話は少ない。生前の彼は、乙女ゲームに興味を持っていなかったから。
(くそぉ……。こうなると分かってたら、もうちょい真剣に聞いとくんだった)
そう思いながら、女の体になった彼は、自分の記憶を掘りおこす。唯一の救いは、クリスティアンが姉の推しだということだ。
(確か、主人公にだけは優しいんだっけ。好きな相手だったから。……てことは、今は俺のことが好きだから、優しくしてるってことなのか?)
不審そうに、クリスティアンを見つめるジュリア。一方で、クリスティアンになった日奈は空いている客室のベッドにジュリアを寝かせて、その側に置いた椅子に座った。
そこに、メイドが医者を連れてくる。医者はクリスティアンの見ている前で、ジュリアをひと通り診察して告げた。
「ただの頭痛かと思われます。薬を飲んでお休みになれば、楽になるかと」
「そうか。ありがとう。……少し彼女と話したい。2人きりにしてくれるか?」
王子の命に、メイドと医者は黙ってうなずき、部屋から出ていく。その姿が見えなくなった後に、クリスティアンはイタズラっぽい笑みを浮かべて口を開いた。
「さて、これで邪魔者はいなくなった。話を聞かせてもらえるかな?」
「……話、ですか?」
ジュリアは彼の考えが読めず、首をかしげる。その姿を見て、彼は笑みを深めた。
「僕は君の婚約者だ。うぬぼれでなければ、君は僕のことを愛してくれていたと思うんだけど……。どうにもさっきから様子がおかしい。僕は何か、君に嫌われるようなことをしてしまったかな?」
「……えっ」
その言葉に。ジュリアは何も言い返せず、石のように固まってしまった。
(なんだこれ? 実際にあるイベントか?! どう返すのが正解なんだよ!)
彼女の前に、選択肢は出てこない。そのことが、いっそうジュリアを焦らせる。言葉が出ない彼女を見て、クリスティアンは目を細めた。
「僕のことが、嫌いになったのだとしても。婚約は、家どうしの繋がりを強くするためのものでもある。すぐに解消するわけには……」
「……そんなこと、言っていません!」
話の途中で。ジュリアは強い口調で、言葉を発した。大きな声に、クリスティアンが驚いたように目を見開く。
「……本当になんでもありませんから。どうかそれだけは、やめてください」
婚約破棄イベントが起これば、ジュリアはどのルートでも死亡する。姉から聞いたその話が、彼女の危機感を強めていた。




