第47話:心に決める
(これでいいんだ)
クリスが手配した馬車に、ポウムと一緒に乗りこみながら。ジュリアはそんなことを思った。
「それじゃあね。また今度」
ニコニコと笑って、彼は2人を見送る。馬車の中で、ポウムは言った。
「王子様って、素敵ですよね」
「……そうね。あなたは、あの人のことが好きなの?」
ジュリアは少し身構える。隣に座っている少女は、口元に指を当てて考えた。
「んー……。私は、別に」
「……そう」
その言葉が本音かどうかは、ジュリアにはわからなかった。2人はそれきり会話をやめて、馬車に揺られる。
(……帰ったら、何をしよう)
静かになった馬車の中。聞こえるのは、車輪が回るガタゴトという音だけだ。
(向こうに俺の味方はいない。……自分の家、なのにな)
公爵家の前で馬車が止まる。先に下りたポウムの手を借りて、ジュリアはゆっくりと馬車から出た。門番が無言で、2人を見送る。屋敷の中ではジュリアの兄が、笑顔で彼女を出迎えた。
「おかえり、ジュリア」
妹は黙って頭を下げる。彼はまだ、彼女の変化に気づいていない。
「……ねえ、お兄様」
気づかれるわけにはいかない。そう思いながら、ジュリアは目線を下に向けたまま口を開く。
「お祭りの日の前に、クリス様と出かけてもいいかしら」
「ああ。また新しいドレスを仕立てるんだろう? もちろんいいとも。グラファ家の令嬢たるもの、常に誰より美しく、目立つ存在でなければね」
兄は笑ってうなずいた。そのことで、ジュリアが安心した後に。
「……それに、僕もクリスに会えるのは楽しみだ。親友だからね」
少し声を低くして、男は続けた。ジュリアはそっと顔を上げる。彼女の兄は、少し不気味にも見える笑みを浮かべて、クリスのことを語っていた。
(……マジか)
考えてみれば当然だ。ジュリアとクリスは同じ転生者だが、記憶が戻った時期は違う。
(何をしたんだ、お前……)
ジュリアは心の中で、クリスに向かって問いかける。当たり前だが、脳内にいる彼は何も答えない。彼女の兄……メルヴィンは明らかに、クリスのことを特別視していた。
(それは、親友だからだと思ってたが……)
シリルの変化もある。何よりも。クリスは元々、乙女ゲームのプレイヤー側だった。
(主人公と同じように動いてたんなら、攻略対象からそういう目で見られててもおかしくねえよな)
彼女は1人で納得する。そして。
(まあ、何でもいい。ここにアイツは来てねえし、誰が相手でも、俺は婚約者の立場が使える)
改めて彼は決意する。少し危機感の足りないクリスの代わりに、全力で彼を守ろうと。




