第43話:過去の夢
クリスティアンは生まれたときから、未来で起こることを知っていた。
『……お母様! ねえ、お母様、行かないで……』
今の王には、3人の妻がいた。彼の母である王妃と、2人の側妃。なのに子供は、彼だけで。
(……だから言ったのに)
幼子の望みを、たわいないものと切り捨てて出ていった人が、冷たくなって戻ってきたとき。彼は外では泣き叫ぶフリをしていたが、本当はちっとも泣けなかった。そうなると、知っていたから。
(お母様は、殺されたんだ)
自業自得だ。
彼女は側妃に子ができることを望まなかった。それがたとえ、継承権のない姫でも。だから、母親のお腹の中にいるうちに殺した。どうしてそこまでしたのかは、クリスには分からなかったけれど。
(……あの人たちは、これで良かったのだろうか)
死体は3つ。彼の母は、用心深い人だった。けれど、彼女たちはその警戒をくぐり抜けて、見事に毒殺してみせた。自分が死ぬことを恐れなければ、毒入りのお茶も笑って飲める。
「……ううん……」
夢は、そこで終わる。目がさめて、彼は何度かまばたきした。
「クリス様……」
「……起きたのか」
ジュリアとシリル。2人の顔が視界に入る。クリスは微笑んで、口を開いた。
「……おはよう、ジュリア。シリルも来てくれていたんだね」
「おはようございます、クリス様」
ジュリアは深々と頭を下げる。ベッドの横にいたシリルが、地面にヒザをついてクリスを見つめた。
「……っ、ああ。お前のことが気になって……」
横になっているクリスが、シリルに向かって手を伸ばす。彼はその手を迷わず取った。
「……珍しい格好をしているね」
シリルの手を掴んで、クリスはゆっくりと起き上がる。そして彼は、使用人の服を着ているシリルを見て笑みを深めた。
「どうしたの? その服……」
「城にあった予備の物を借りた。……お前と話をするのなら、この姿のほうがいいからな」
「……話」
クリスは真剣な顔をして、シリルの目を見ながら聞く。
「何か、あったの?」
「……あ、いや。たいしたことじゃ……」
シリルは急にうろたえ始めた。ジュリアが側でため息をつく。
「とりあえず、ベッドからは出ましょうか」
彼女はそう言って立ち上がり、部屋にあったイスに座る。シリルも慌ててクリスの手を離し、同じように席についた。最後にクリスがベッドから抜け出して、空いたイスを使う。
「お茶を持ってこさせようか?」
「いや、このままでいい」
彼の問いに、シリルはどこか気まずそうな様子で返した。
「……これは、革命についての話じゃない。だからお前はもしかしたら、興味がないかもしれないが……」




