第42話:おはよう
翌朝。起きてきたポウムは、2人仲良く並んで眠っている王子と令嬢を見て声を上げた。
「まあ……!」
弾む声色。栗色の瞳がキラキラと輝く。
「おめでとうございます。昨夜はお楽しみだったのですね」
「……うん?」
先に目を開けたジュリアは、嫌な予感がして口を開いた。寝起きで掠れた声が出る。
「あの、なにか勘違いをして……」
「大丈夫です!」
ポウムはジュリアの話をまったく聞かず、胸を張った。
「私、誰にも言いませんから! もう少し、ごゆっくり! なにかあれば、いつでも呼んでくださいね」
そう言って、召使いは止めるヒマもなく小部屋に戻る。彼女の背に向かって手を伸ばしかけていたジュリアは、しばらくしてからその手を下ろした。
「……違うのに」
「……ん……」
横にいるクリスが寝返りをうつ。
「もうちょっと、寝かせて……」
言葉の後に、すぐに寝息が聞こえてくる。ジュリアはため息をついて、先にベッドから出た。彼女は眠る彼の近く、ベッドの端に腰を下ろす。部屋のドアが、外から軽くノックされる。
「……どうぞ」
誰が来たのか。彼女には、なんとなくわかっていた。ドアが少しだけ開けられて、その隙間から男が入ってくる。それは、使用人の服を着たシリルだった。
「クリスはまだ寝てるのか」
「……ええ。昨日、遅かったから」
ベッドの横に歩み寄って、スヤスヤと眠る王子を見下ろし、男は深い息をはきだす。
「……オレは自分のために生きてきた。今も昔も」
無言のまま、ジュリアは彼を見つめる。真剣な横顔。そのまなざしには思いやりと、わずかな熱がこめられていた。
「それでいいと、思ってたのにな……」
自分に言い聞かせるように、シリルはつぶやく。だが、眠るクリスから目を離さない彼の姿からは、言葉には出せない彼の本音が伝わってきた。
(良かったな。うまくいってるみたいだぞ)
ジュリアは昨夜、主人公のようになれなくて、泣いていたクリスを思いだす。この状況は、誰よりも。彼が望んでいたことだ。――だが。
「クリス様は」
ジュリアはたまらず、口を開いた。シリルの目が、彼女に向けられる。
「私の、婚約者ですからね」
前半の言葉に、とりわけ強い意志をこめて。彼女は強い口調で言った。2人の視線がぶつかる。少しの間、互いににらみあって。先に折れたのは、シリルだった。
「貴族ってのはしがらみが多いな」
「そもそも、あなたがたは同性でしょう」
「何を想像してるか知らねえが、そんなつもりはねえ。今朝だって、礼がしたくて来ただけだ」
「でしたらどうぞ、お引き取りを。今はクリス様を休ませてあげてくださいな」
「邪魔はしねえ。側にいるくらい、いいだろう。……同じ男なんだからな」
互いに引かない、2人のやり取り。それはクリスを起こさないために、抑えた声で続けられた。




