第41話:おやすみなさい
「……お前な……」
シリルはため息と共に、言葉をはきだした。
「……そんな考えは、オレたちにもねえぞ」
「……ええ、まあ。珍しいでしょうね」
側にいるジュリアも苦笑を浮かべる。クリスは不思議そうにしていた。
(まあ、中身がオタクだからだろうな……)
ジュリアの中にいる孝太は、その理由を察していた。彼女は笑って、話を続ける。
「……この人は、自分が得たお金を、好きなお店に使いたいだけなのだと思います。ほら、そうすれば、お店が長く続くでしょう? 自分も長く通えます。それを目指しているのでは」
「……そうかよ」
シリルはまだ、納得していないようだった。だが、彼はそれ以上は何も言わず、ジュリアと2人でクリスを運ぶ。夜道の奥に見える城が、だんだんと近づいてきていた。
「裏に回りましょう」
ジュリアはそう言って、クリスのフードを外す。その代わりに、今度はシリルが顔を隠した。
「……お疲れ様。通っていいかな?」
夜風に当たって、少し酔いが覚めたクリスが、裏門を守る衛兵に告げる。彼らは黙って、3人を城の中に入れた。
「……ええと、部屋は……」
「こっちだろ。……大丈夫か、お前たちは」
ずっとクリスに案内されていたせいで、道がわからないジュリアの代わりに、シリルが彼女の部屋に向かう。クリスは穏やかな笑みを浮かべた。
「……ありがとう」
まだ彼の足どりはおぼつかない。目も半分閉じかけている。その姿を見て、シリルとジュリアはジト目になった。3人は黙って、移動する。
客室が並ぶ棟に入り、ジュリアが使っている部屋のドアを開けて、2人はクリスをベッドに運んだ。横になると、クリスはすぐに寝息を立てだす。
「……ありがとう。後は私に任せてくださる?」
ベッドで眠る彼を見ながら、ジュリアはシリルに向かって言う。その声は少し冷ややかだった。
「……ああ、それはいいが……」
シリルは2人を見比べて、部屋の外に出ながら言葉を残す。
「オレも今日は城に泊まる。何かあれば言え」
彼が出ていって、ドアが閉まる。ジュリアは閉じられたドアを見ながら、小さな声でつぶやいた。
「……アイツもなんか、同じことを考えてねえか?」
ベッドで眠るクリスは、子供のような顔をしている。その寝顔を見つめながら、ジュリアは彼の隣に、並んで横になった。
「なあ、クリス。お前はきっと、自分のことが見えてないんだろうな。俺は、そんなお前を危なっかしいと思ってる。だから……」
眠る彼の額に、軽く口づけて。ジュリアは柔らかな笑みをみせた。
「俺が他の男から守ってやるよ。……俺はお前の、婚約者だからな」




