第40話:そういうもの?(後編)
「……ふふ。ふわふわする……」
酒を飲み続けて、クリスはすっかり良い気分になっていた。ニコニコと笑って、彼はジュリアにもたれかかる。
「ねえ、君も飲みなよ。お酒、美味しいよ?」
「……私まで酔ってしまったら、あなたを助ける人間がいなくなるでしょう」
呆れた顔で彼女が返す。彼は笑みを浮かべたまま、目を閉じた。それを見て、ジュリアは渋い顔をする。
「ちょっと。寝るなら王宮に帰ってから……」
「ヤダ。だってここ、宿屋でもあるんだよ。せっかくだから泊まりたい。お金はあるし……」
「……バカ野郎。お前、自分を何だと思ってるんだ。王宮に帰らなかったら、捜索隊が出てくるだろうが」
つぶやきながら、シリルはクリスの腕を掴む。
「ほら、オレの肩を貸してやる。だから動け」
「……はあい」
ポワポワとした笑みを浮かべて、彼はうながされるままに立ち上がった。ジュリアは彼の手からコップを取って、机に置く。
「クリス様」
「うん?」
気が抜けた柔らかい表情で、男は首をかしげる。長いハチミツ色の髪が、ランプの明かりを受けてキラリと光った。
「あなたは私の婚約者ですからね。どうか、お忘れなく」
その言葉に、シリルがギクリとする。クリスの笑顔に見とれていた自覚がある彼は、目をそらして言った。
「……ま、まあ。とにかく、王宮に行くぞ。歩けるか?」
「んー? うん……」
笑いながら、クリスはうなずく。その足どりはフラフラとしていた。
「……もう。私も、お手伝いしますわ」
ジュリアは席を立って、シリルと一緒にクリスを挟み、彼の腕を肩にかけた。右にジュリア、左にクリスがいる状態で、両側から支えられながら彼はゆっくりと歩きだす。ジュリアは彼の頭にフードを被せて、自分も顔を隠した。
「……シリル。その人、大丈夫? 部屋、空いてるけど」
ドアのカギを開けて、外に出た先で。酒場の娘が、心配そうに声をかけてくる。シリルは鋭いまなざしで、彼女を見た。
「いや、いい。……こいつは家に帰してやんねえとな」
「……ふうん」
娘は目をシパシパとさせて、興味深そうな顔をした。
「アンタはホントに、その人のことが気に入ったんだね。今度アタシたちにも紹介してよ」
「……ああ、全部終わったらな」
そう言って、彼は2人を連れて歩く。そのまま店を出た3人は、夜の街を進んでいった。その道中で、シリルは2人にだけ聞こえるように言葉を落とす。
「革命が成功したら、もう1度あの店に来てくれよ。またオレが奢ってやるから」
「えー? どうして?」
クリスの声は弾んでいた。暗い道に、明るい声が響く。
「お金、払わせてよ。大好きなお店なんだから」
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