第38話:そういうもの?(前編)
「……だから何?」
ナイフとフォークを皿に置いて、クリスは口元をナプキンでふきながら言った。
「僕たちは、そんな世界を変えるために行動している。君は僕の言葉が信じられないかもしれないが、そんなことはどうでもいい」
彼は笑っていた。心から。席を立ったクリスが、シリルに近づく。
「僕は他の貴族とは違う。それだけだ」
「……っ、あ……」
シリルの瞳が揺れる。彼はクリスから、目が離せなくなっていた。
「……お前は……いや、あなたは……」
男の口調が変わる。クリスは彼の後ろに立って、その肩に手を添えた。
「僕はクリスティアン・ノーランド。これからこの国の王になる男だ」
室内に沈黙が満ちる。しばらくして、シリルは握りしめていた拳を開いた。彼は目を伏せてつぶやく。
「……クリスティアン、様……。すみません。オレは、あなたのことを誤解していた……」
「いいよ、どうでも」
男の謝罪を、クリスティアンはひと言で切り捨てた。彼は笑みを崩さず、シリルに向かってささやきかける。
「言葉もそのままでいい。僕は今の君を気に入っているんだ。どうか、革命軍の仲間として認めてほしい。望むことは、それだけだよ」
「…………は」
そんなことを言われるとは思ってもみなかったのだろう。男は目を見開いて、口を開けたまま固まる。ジュリアは内心で、彼に同情した。
(まさか、この完璧な王子様の中身が、ただのオタクだとは思わねえよな……)
クリスはキャラとしてのシリルを大切にしている。敬語を使わないでほしいというのも、その1つでしかなかった。だが、シリルはそんなことを知らないので、ただ感心するばかりである。
「……ハァ。スゲェな、アンタは」
やがて、男は言葉をはきだして、体に入れていた力を抜いた。
「……もう1杯、付き合ってくれるか。酒はオレが持ってくる」
「うん、いいよ」
クリスはニコニコと笑って、シリルから離れる。フラリと立ち上がり、男は部屋から出ていった。
「……あんなに驚くとは思わなかったなぁ」
扉が閉まった後で、クリスはポツリと言葉を落とす。ジュリアは苦笑を浮かべていた。
「……やり込んだんだろ、このゲーム」
「でも、こんなイベントじゃなかったよ?」
「いや、まあ……。そりゃ変わるだろ、多少は。どっちも男なんだから。でもま、良かったんじゃねえか? これでシリルは、お前のことを信頼するだろうし。秋のイベントってやつも、多分なんとかなると思うぜ」
「……あ、そっか……。そう、だったね」
彼の言葉を聞いて、初めてクリスの表情がくもる。




