第37話:酒場(後編)
「……美味しいですね、このお酒」
ジュリアは思ったことを素直に口に出す。その言葉に、シリルは目を見開いた。
「……安もんだぞ、それは」
「でも、それほど強いお酒じゃないし、飲みやすいよ」
ニコニコと笑って、クリスが横から口を挟む。そこに、娘が肉料理を持って入ってきた。香草の匂いが、湯気と共に立ち昇り、部屋を満たす。
娘は目線を下に向けたまま、料理を出してすぐに去った。扉が閉まる音を聞きながら、クリスはフードをはずす。
「これ、前から食べてみたかったんだ」
目の前に置かれたナイフとフォークを手にとって、彼はワクワクを隠しきれない様子で、誰より先に食べ始めた。ジュリアも彼と同じようにフードを取り、自分の前に置かれた料理に口をつける。しっかりと味つけされた鶏肉はジューシーで、食べ慣れたジャンクな味がした。
「うまっ! いや、こういうの、あんまり食べね……食べられませんよね?!」
つい、いつもの調子で話そうとして。そこにシリルがいたことに気づき、彼女は慌てて取りつくろう。当のシリルは、驚きすぎて固まっていた。
「そうだね。素材が安いから、味つけに工夫を凝らして美味しくしているんだと思う。……やっぱりここは、いいお店だよ」
その隣で。酒と食事を楽しみながら、クリスはジュリアの言葉を肯定する。中身が現代日本人である2人にとって、安くて美味い店は正義だった。
「ええ、本当に。できれば、お代金を払いたいくらいです。……おいくらで?」
「酒と料理、全部で銀貨10枚とか、そのくらいじゃないかな。1人分は。だから僕と君の代金は、金貨2枚でいいと思う」
「……っ、待て! テメエらの施しなんて……!」
2人の会話に、シリルはイライラとした様子で割りこむ。クリスは目を細めて、淡々とした声で返した。
「施しじゃないよ。僕らは客だ。サービスを受けたら、金を払うのは当たり前だと思わないか?」
「……だ、だとしても! これはオレが頼んだもんだ。オレが出す」
動揺で、震えた声で。シリルは告げて、2人をにらむ。クリスとジュリアは、それ以上は何も言わず、黙って皿を空にした。酒も飲みきって、いい気分で。2人は互いに、満足そうに笑いあう。
「……こんなお店があったなんて、知りませんでした」
「前から話には聞いてたんだよ。来られて良かっただろう?」
「ええ、本当に」
上機嫌な2人を見て、シリルはグッと拳を握った。その口から、低い声がもれる。
「……ここだって、王宮に支払う金がなくて、毎日衛兵に怒鳴られてんだ」




