第33話:外出(中編)
(またなんか気にしてんな)
黙って考えこんでいるクリスを見て、ジュリアは目を細めた。
「……クリス様。ちょっと」
彼女は笑顔で声をかける。その声に、クリスはパッと顔を上げた。
「……あ、ああ。どうかした?」
「あまり考えすぎても仕方ないでしょう。夕方までは、どうせ何もできないのですから」
「それもそうか。……ありがとう」
彼はゆっくりと息を吐いて、ソファに座った。ポウムはどうしていいか分からず、オロオロとした様子で口を開く。
「あ、あの……お疲れなら、お茶を用意しましょうか?」
「……ああ。せっかくだから、お願いしようか」
クリスが穏やかな顔で返す。ポウムはホッとして、部屋から出ていった。
「あの子は家事が得意でね。任せておけば、完璧なものを持ってきてくれるよ」
「……そっか。あのさ」
机と2人分のイスを引きずって、部屋の中央に移動させながら。ジュリアは目を伏せて問いかける。
「そういうイベントも、あったりするのか?」
言葉の意味が掴めず、クリスは首をかしげながら、ソファから椅子に移動する。その姿を見ながら、彼女は言いにくそうに続けた。
「その、なんつーか……お前のルートを目指すって言うから。婚約破棄はしないって話だったけど、絶対にとは言えねえだろ」
その言葉で、彼はようやく、ジュリアが伝えたかったことを汲みとる。
「……そうかもね。だけど僕は、君を見捨てることはない」
その上で、クリスは堂々と宣言した。
「君のことだって、好きだったんだ。主人公と同じくらい。……今の君は、僕を愛していないのかもしれない。もしかしたら、1人でも生きていけるって……。そう思っているのかもね。それでもいいんだ。できることを、させてくれ」
彼の言葉が終わると同時に、ポウムがお茶を持ってくる。華やかな香りが部屋に満ちた。
(……かっけえ)
ドキドキする胸を抑えながら、ジュリアは湯気を立てるカップを見つめる。彼女が落ち着くまでの間に、クリスはポウムを下がらせていた。
「……お前ってスゲーイケメンだな。中も外も」
やがてジュリアは、ポツリと呟く。それを聞いて、クリスは本当に嬉しそうな顔をした。
「当たり前だろ。せっかく、クリスティアン・ノーランドとして生まれたんだから。この顔に、見合う自分にならないと」
「……もう、なってるっての」
胸を張るクリスの、どこかズレた言葉を聞いて。ジュリアは苦笑を浮かべながら、フーフーと息を吹きかけてお茶を冷ました。日はまだ昇りきってもいない。
「そういえばさ……」
彼女はあえて、前世で起きた何でもないことを話しだした。理由はない。ただ彼と、もっと仲良くなりたくて。




