第32話:外出(前編)
翌朝。
「……ど、どうしてここに、王子様が……?」
ジュリアの身支度を手伝うために起きてきたポウムは、ソファーで寝ているクリスティアンを見て目を丸くした。眠っていたクリスが、その声を耳にして目を開ける。
「……んー? もう、朝……?」
相変わらず、朝には弱い彼(彼女)は、ボンヤリとした表情で言った。その様子に、内心で苦笑しながら。ジュリアは目を細めて告げる。
「昨日、夜遅くまで話していたの。それで私が、一緒に寝てくれませんかとお願いして……」
「……さすがに、ベッドに入るのはどうかと思ってね。ソファーを使わせてもらったんだ」
彼女の言葉に後から付け足して、クリスはゆっくりと起き上がり、体を伸ばす。ポウムは2人の話を聞いても納得しきれないようだったが、それでもなんとか飲みこんで返す。
「……そうでしたか。本日のご予定は……?」
「特別なものは何もないよ」
そう言って、クリスはジュリアのほうを見た。
「……ただ、そうだね。昼から少し、彼女と出かけるつもりだから……。君は昨日と同じように、先に休んでいてくれる?」
「……また、遅いお帰りになるのですね。頑張って、起きていることもできますが……」
ポウムが遠慮がちに口を開く。ジュリアは薄い笑みを浮かべた。
「あら、私とクリス様の逢瀬を邪魔する気? 使用人のくせに、いい度胸ね」
「えっ?! い、いえ! そんなつもりは、ありません……!」
少女は慌てて、首と手を一緒に振る。そして後ろに下がりながら、深く頭を下げた。
「申し訳ございません。どうか、お許しを……」
「いいわ。今回だけは、見逃してあげる」
ジュリアはすぐに、言葉を返す。クリスも全てわかった上で、静観していた。
(こうすれば、ポウムがついてくることはない)
昼から出ると彼女には言ったが、実際に外に行くのは、夕方から夜にかけてのことだ。行き先は城下町の酒場。裏で革命軍が集まっている場所である。
(服を着替えて、マントを着て、フードを頭から被っていく。そうすれば、途中で止められることはない。問題は王宮を出るときだけど……)
ポウムとのイベントで、彼女に誘われてクリスが街に出るシーンがある。その展開をなぞればいいと、彼は思っていた。
(僕だけが衛兵に顔を見せて、他言はするなと言えば大丈夫なはずだ。酒場では、シリルだけにこっそりと顔を見せて……)
不安はある。原作とまったく同じにはならないし、平民は貴族を恨んでいるから。それでも行動するしかないと考えて、クリスは自分を勇気づけるように、心の中で繰り返した。
(……大丈夫。僕はシリルのことを知ってる。革命軍の人たちのことも)




