第30話:内緒話(後編)
「しかたないんだ。……フィリクスの実の母親は、貴族じゃない。それは革命軍には、いずれバレることなんだから。最悪のタイミングでバレたら、計画は失敗してしまう」
硬い声で告げられて、ジュリアは何も言えなくなった。
(……とんでもねえな、今の状況)
クリスティアンが気にする理由も分かる。ただ。
「……お前、死なないためにやってんだろ。無茶はするなよ」
たとえ、攻略法を知っているとしても。彼の行動はどれも、危険と紙一重であるように思えて。ジュリアは目を細めて、口を開いた。低く、厳しい声で。彼女は続ける。
「主人公だけじゃねえ。お前が死ぬのもダメなんだからな」
「……心配してくれるんだ」
クリスはどこか、嬉しそうな顔で言った。
「平気だよ。秋のイベントは、お互いの間の隠しごとをなくすために、フェリクスとシリルが話し合うやつだから。それまでに、2人が仲良くなってることが条件だ」
「……そうかよ」
ため息をついて、ジュリアはジト目でクリスを見た。
「そんで? 秋までに、どうやって仲良くさせるんだ。シリルは貴族が嫌いなんだろ」
「そうなんだよね。原作だと、ポウムが彼のガンコなところを変えてくれたんだけど……。僕だとそれは難しいかも」
沈んだ声で、彼は返す。彼女は目をそらさずに聞いた。
「俺……じゃない。私たちが、貴族らしくないところを見せるとか?」
「それがいいかな。……ところで、ジュリア」
それは、クリスの中にいる日奈も考えていたことだった。だからすぐにうなずいて。それから彼女は、ずっと気になっていたことを口にする。
「君、もしかしてお兄さんか弟がいたの? 言葉の使い方とか、男の子みたいだし。今だって、自分のことを『俺』って言いかけてたから……」
「……あ。や、まあ。兄弟はいたけど……」
ジュリア(孝太)は少し言葉をにごした。それは嘘とは言いきれないが、本当のことでもない。彼にいるのは姉だけだ。
(……でもさあ!)
彼は改めて、自分の手を見た。白く細い、少女の指が目に入る。
(コイツはちゃんと、前世と同じ男になってるのに、俺だけ女になってるとか! バレたくねーよ!!)
目の前にいる男が、コスプレ気分でキャラになりきっている女だということは知らずに。孝太はなんとか、ごまかそうとする。そして、日奈は。
「……そうなんだ。なら、僕と2人きりのときはそのままでいいよ。ずっと口調を変えるのも、大変だろうし」
何も気づかず、気楽な気持ちでそう言った。うまくいったと勘違いして、孝太は無理やり笑みを作る。
「……そ、そうか? 悪いな……」
少し声を震わせながら。彼はなんとか、違う話をしようとした。
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