第29話:内緒話(中編)
「……で、フィリクスはそのこと、知ってるのか?」
ジュリアの問いに、クリスはゆっくりと、首を縦に動かした。彼女の頬に冷たい汗が流れる。室内に流れる重い空気を感じながら、ジュリアは続けた。
「……それで?」
「フィリクスは父を憎んでいる。だが、生きるためには父親の庇護を受けるしかない。……彼はね、ブランソン家の実権を握りたいんだ。そのために確かな実績を求めている。彼の力によってブランソン家が公爵になれば、父親よりも彼を支持するという者も現れるだろう。それを狙っているんだよ」
「ようは遠回しな復讐じゃねえか。そんなもんに、力を貸していいのか?」
ジュリアの目がすわる。彼女の中にいる孝太は、事情を詳しく知るにつれて、だんだんと怒りがわいてきた。
(ふざけんな。そんなことで、俺は殺されるかもしれねえのか)
彼の感情は、クリスにも伝わる。そして、彼になっている日奈は。
「……うん、そうだね。君にとっては理不尽なことだ」
ジュリアに共感して、穏やかな声でそう言った。その反応が予想外で、孝太は一瞬、怒りを忘れる。
「……え」
「この国って、そういう話ばかりなんだよ。恨みと憎しみが積み重なって、爆発寸前の状態になってるんだ。……ほら、だから革命軍なんてのも出てくるわけで。でも、それはどれも僕たちが生まれる前のこと。関わってもいないのに、責任を取らされたくはないよね」
淡々と。静かな声で、クリスは話す。ジュリアもしだいに落ち着いてきた。
「……お前がこのゲームをやり込めた理由、なんかちょっと分かったわ」
やがて、彼女はため息と共に言葉をはきだす。
「イライラしねーんだな。こんな状況でも」
「……ふふ」
クリスはニコニコと笑っていた。
「そうだなあ。まあ、僕は全員の個別ルートを知ってるから。例えばフィリクスとか。本音も弱音も聞いちゃってるから、むしろ可愛く見えちゃって。君みたいには思えないんだ」
「……ああ、そう」
その笑みで、完全に気が抜けてしまって。ジュリアは肩を落として、ひたいを押さえた。
「……んで、シリルは?」
「ああ、彼。もちろん、フィリクスの本当の目的は知らないよ」
「まあ、そうだよな。……知ったらどうなるんだ? バッドエンドか?」
「いや。それは秋ごろに通る、必須イベントだね。むしろ明かさないとならないことだ」
「なんでだよ! どう考えても、揉めごとにしかならねえだろうが!!」
ジュリアは思わず声をあらげた。クリスはわずかに眉を下げて、困り顔になる。




