第28話:内緒話(前編)
「……物騒だな」
ジュリアは目の前の光景を見ながらつぶやいた。フィリクスたちは、真剣な顔で王宮に攻めこむ方法を話し合っている。武器の調達から、王の寝室までのルート。それを確認して、話し合いは終わった。シリルは王宮の地図をたたんで、懐に入れる。
「じゃあな」
そう言って、彼は奥の小窓に近づいた。窓からはロープが垂らされている。そのロープを両手で握って、フードの男は下に降りていった。
「……やれやれ。相変わらず、血の気が多い男だな」
シリルの姿が完全に見えなくなってから、フィリクスはそう言ってため息をつく。
「感謝しますよ、殿下。国のしくみを変えず、あの男を抑えてくださったことを」
「……いや、何。僕にも利益はあるからね」
笑みを深めて、クリスティアンは言葉を返した。
「僕は君たちの力を借りて王になる。その暁には、もちろん君の家を……」
「侯爵から公爵に上げてくださる。……信じておりますよ、殿下」
その会話を耳にして。ジュリアは思わず、声を上げそうになった。だが、すんでのところで飲みこんで。彼女はクリスに手を引かれながら、フィリクスに見送られて部屋を出る。
「……何の話?!」
ジュリアの部屋に向かって、来た道を戻る途中で。彼女は耐えきれず、口を開く。クリスは黙って微笑んだ。彼の足が、少しだけ早くなる。ジュリアも内心では分かっていた。この話は、外で口にすべきではないと。
(でもさあ!)
気になるどころの話ではない。この国の公爵家は、グラファ家だけだ。それをどうして増やすのか。何よりも。
(シリルは貴族が嫌いなのに、自分たちがやってることがそいつらの力を強くすることに繋がるって知ったら、絶対暴れるだろ!!)
そんな思いが、頭の中を駆けめぐる。クリスは無言で、彼女の手を取ったまま部屋に入った。
「……さて」
扉を閉めて、彼はようやく言葉を落とす。
「話をしようか。フィリクスとシリルのすれ違いについて」
ジュリアは無言でクリスを見つめる。その目から、彼女の意思を読み取って。彼は真顔で、話しだした。
「フィリクスは妾腹の子だ。本来なら、跡継ぎになどなれないはずの。ただ、ブランソン家の正妻は子を産めない、病弱な人でね。家を残すために、まだ5才だった彼を母親から引き離したんだ」
「……それで、フィリクスの本当の母親は?」
ジュリアは掠れた声で聞いた。クリスは目を伏せて、両手を強く握りしめる。
「……自分の子を奪われたことで、彼女はひどく気落ちしてね。ご飯も食べられず、やせ細ってなくなったそうだ」




