第26話:フィリクスとシリル(中編)
「オレみてえな男のことなんて、アンタら貴族は、見たくもねえって思ってんだろ」
そう言って、シリルはジュリアをにらみつける。彼女は鮮やかな笑みを浮かべた。
「私をあまりナメないでくださる? 殿下が許しているのなら、私からは何も言うことはありませんわ」
「……ハッ」
シリルはジュリアの言葉を鼻で笑って、更に続ける。
「結局王子サマのお人形かよ。アンタに自分の意思はねえんだな」
「シリル」
彼女が何か言う前に、クリスは笑顔で口を挟んだ。
「ジュリアは僕を信頼して、任せてくれているだけだよ」
「そうですわ。それに私は、きちんと自分で考えています」
「グラファのお姫サマに、考えがあるとは思えねえがな」
彼の言葉に頷くジュリアに、シリルはなおも絡んでいく。その意味のない争いを止めたのは、フィリクスだった。
「そこまでにしろ、シリル。……お前が貴族を嫌っているのは分かっている。だが、彼女が手を貸してくれるというのなら、私には断る理由がない」
低い声と、メガネの奥の冷たいまなざし。普段の彼とはまるで違うその態度に、ジュリアは目を見開いた。
(……こっわ! こいつ、こんなヤツだったのか)
ジュリアの記憶にある彼は、地位が高いだけで目立たない、大したことのない男だ。孝太も姉から聞いたことは、特にない。
(てか、正直ちゃんと聞いてねえ……)
クリスティアンに関しては、姉が熱心に言い続けていたから、なんとなくでも知っている。だが、他の攻略キャラのことは、名前すら頭に残っていない。
(……どうしよう)
今の孝太は女だ。力では彼らに敵わない。そう思ったとき。ジュリアは無意識に、クリスに体を寄せていた。
(そうだよね。何も知らないなら、不安になるのも当たり前だ)
反対に、クリスの中にいる日奈は落ち着いていた。何度も見た、キャラの裏側。彼女にとっては普通の光景で、あまり驚くことではない。だが、ジュリアは違う。
(この子はアプグラを知らないもの。私が守ってあげないと)
近づいてきた彼女の体を抱き寄せて、クリスは微笑む。フィリクスはまだ、シリルと話していた。
「グラファ家は、この国で唯一の公爵家だ。お前が憎み、滅ぼしたいと思う、貴族そのもの。だが、その力も利用して、お前はこの国を変えるんだろう? そうでなければ、お前が私と組む意味はない。なぜなら、私もまた。お前が憎む、貴族の中の1人なのだから」
その言葉に、シリルは唇を引きしめた。その体が震え始めて、目もギラギラと輝きだす。




