第24話:恋愛にはまだ早い?
「……お、おう」
ふわりと笑った、クリスを見て。ジュリアの胸が跳ねた。ドキドキと、心臓が音を立てて動く。
(かわいい……? いやいや、んなわけ……)
彼女の中にいる孝太は、頭を振って、その考えを追いはらう。クリスはそれを見て首をかしげた。
「どうかした?」
「……いいえ、何も」
彼女は無理やり笑顔を作る。
「気にしないでください。大したことではありませんから」
「……そう?」
クリスはますます、不思議そうな顔をした。その表情まで、可愛らしく思えてきて。動揺しながら、ジュリアは続ける。
「そうです! ……そんなことより、今夜のことを考えましょう」
「……まあ、そうだね」
うなずいて、彼は入り口のほうを見る。そこには不安そうな顔のポウムが立っていた。
「少し、いいかな」
「……は、はい! なんでしょうか」
少女は明らかに緊張していた。声も震えて、掠れている。そんな彼女に、王子は優しく笑いかけた。
「また、ジュリアと出かけてくる。帰りは遅くなるから、君は先に休んでいて」
「分かりました」
ポウムは頭を下げて、客室の横に作られている小部屋に入る。その姿が見えなくなって、小部屋の扉が閉まったところで。クリスは深い息をはいた。
「これでいいんだろ? 他の奴らは、主人公とは出会わなくなる」
「……いや。どのみち確定イベントがある。その前にルートを決めて……でも。彼女の意思を無視しては……」
ジュリアの言葉に、クリスは考えながら返す。目線は合わない。ブツブツと、1人で呟く彼の肩に、後ろから手を伸ばして。ジュリアはその手に、力をこめた。
「だからあんま悩むなって。お前は生き残ることだけ考えてろ」
強い口調で言いきられて。クリスの中にいる日奈は、そこでようやく落ち着けた。
「……うん。そうする」
何度もプレイしたゲーム。すべてのイベントの発生条件を知っていて、すべてのルートを通っている。だからこそ、彼女は気を張っていた。
(私が頑張って、皆を助けないといけない)
その考えは、今も消えない。ただ、今は。
(全部知ってる、ジュリアが協力してくれる。それなら少し、楽になるはずだから)
そう思うだけで、肩の力が抜けていく。そして少しだけ、余裕を取り戻したクリスの顔を見て、ジュリアも安心することができた。
(良かったな。今のままだと、あいつは何か、無茶なことをしそうだったし)
彼は黙ってイスに座る。彼女も同じようにした。時計はないが、時間はすぎる。やがて、少し傾いていた日が完全に落ちきるころに。クリスティアンは、口を開いた。




