第19話:剣術(後編)
そこは周囲が見渡せる、広めの場所だった。複数の兵士が、あちこちで剣を振っている。
「おや、殿下……」
40才くらいの中年の男が、クリスティアンを見つけて近づいてきた。
「やあ、マイルズ。今日も鍛錬、お疲れさま」
「ありがとうございます」
彼の言葉に、マイルズと呼ばれた男は胸に手を当てて一礼する。そして男は、クリスの後ろにいるジュリアの方に視線を向けた。
「本日は、グラファ家のご令嬢もご一緒ですか」
「そうだよ。どうしても、離れたくないと言われてしまって」
「それはそれは。仲がよろしいようで、何よりです」
マイルズは穏やかな笑みを浮かべる。クリスはその姿から目を離さず、話を続けた。
「……そういうことだから、2人きりにしてくれないかな。それから、練習用の剣を1本、持ってきてくれ。彼女に僕の腕前を見せたいんだ」
「おや……?」
マイルズは目を細めて薄く笑う。
「力試しであれば、相手がいた方が良いのでは?」
クリスは彼の目を見返す。原作では攻略できなかった、王家直属軍の隊長。
(この人が裏でフィリクスと繋がっていたから、クーデターは成功した。今は私もそちら側についているけど、まだ完全に信用されたわけじゃない。だったら、ここで……)
心を決めて。クリスはマイルズに向かって告げる。
「……はは、確かに。では、刃をつぶした試合用の剣を用意していただけますか?」
「分かりました」
もう1度、丁寧に礼をして。男は周囲にいた兵士に指示をだす。
「おい、お前たち。殿下の命だ。私と殿下で、模擬戦をする。場所を開けろ」
兵士たちが、彼の言葉に従って下がる。思いがけない展開についていけなかったジュリア(孝太)は、小さな声でつぶやいた。
「なんかスゲーことになったな……。大丈夫か?」
「平気だよ。彼は歴戦の猛者だけど、僕に対しては手加減してくれるから」
クリスの言葉に、ジュリアは納得しきれないようだった。それでも彼女は彼に促されるままに、壁際に立つ。
(ウソじゃない。僕はこの国の第1王子だ。他に後継者はいない。いずれ王になる僕を、人の目があるところで叩きのめすほど、マイルズは恐れ知らずじゃない)
兵士が持ってきた訓練用の剣を受け取って、クリスは数歩、前に出る。彼と向かいあった男は、目の前で。剣を取って、笑っていた。
「では、始めましょうか」
「そうだね」
クリスティアンは、両手で剣のグリップを握る。そして彼は、慣れた仕草で剣を構え、マイルズに向かって切りかかった。




