第16話:クリスティアンの企み
翌日。朝。食事の席で、2人は再び顔を合わせた。そこは大広間で、長いテーブルには2人の他に、公爵とその息子も座っている。
「おはようございます」
「……おはよう」
元気なジュリアとは違って、クリスティアンはまだ少しボンヤリとしていた。これはそのまま、部活の朝練で早起きすることが多かった孝太と、仕事やイベント以外では家に引きこもっていた日奈の差だ。
「昨夜は遅くまで、娘と話されていたそうですね。今夜も我が家に泊まっていかれるのですか?」
公爵はそんな2人を見て、満足そうに笑っている。何も知らない彼の目には、娘と王子が急に仲良くなったように見えていた。
怪しまれてもしかたがない。そう思っていたクリスは、公爵の様子を見て安心する。彼は物わかりのいい婚約者の顔をして、ジュリアを見た。
「ああ……どうしようか。ジュリアは僕にどうしてほしい?」
「私は、あなたと王宮に行きたいです」
彼女は彼女で、剣を振るうという目的があった。家族に気づかれないように、精一杯のアピールとして。ジュリアはクリスの目を見つめる。
「ええと……それは」
だが、それは彼にとって思いがけない提案だった。ゲームにない展開に、彼は慌てて言葉を返す。
「公爵が許してくださるなら」
「むろん、構いませんよ」
事情を知らない公爵は、鷹揚にうなずく。クリスは戸惑いながらも続けた。
「それと、彼女つきのメイドを1人……以前の部屋つきは、辞めたのですか?」
「ええ、ずいぶん前に」
「でしたら私、あの子を連れていきたいわ。ほら、ポウムとかいう地味な子。彼女なら、少しくらい雑に扱っても壊れそうにないもの」
部屋つきという言葉に、ジュリアは元々の目的を思いだして口を挟む。公爵はそれを、不自然だとは思わなかった。
「いいだろう。……ポウムを呼べ」
彼は他のメイドに指示して、彼女を連れてこさせる。主人に突然呼び出されたポウムは、小さな体をさらに縮こまらせていた。
「おめでとう、ポウム。君は今日からジュリアの部屋つきだ。給金も上がるぞ。良かったな」
公爵の言葉に、他のメイドは揃って同情の視線を向けてくる。部屋つきになるということは、ジュリアのワガママに振り回されるということだったから。だが、来たばかりでジュリアの性格を知らないポウムは、目を伏せながら口を開いた。
「ありがとうございます。がんばります」
その言葉で、思いどおりのシナリオに向かっていることを確認して。クリスの中にいる日奈は、心の中でガッツポーズをした。




