第15話:ジュリアの思い
「じゃあ、お休み」
「……お休みなさい」
クリスティアンはハーブティーがなくなったのを確認して席を立った。寝る前の挨拶を交わしながら、彼はジュリアの部屋から出ていく。
ドアが外から閉められる、その様子を見ながら。彼女はイスの背もたれに体を預けて、肺から息をはきだした。
「はあ……」
色々あって、少し疲れた。そう思いながら、彼女はつぶやく。
「婚約者が、転生者だなんて……。でも、おかげで助かったのか……?」
ジュリアは自分の体を見た。丸みがあって柔らかく、まだ小さいが胸もある。
「どうせなら、俺も男になりたかったな。そりゃあ、あいつは知識もあって頼れるけど」
ジュリアの記憶の中にいるクリスティアンは、いつも冷たい目をしていた。それでも彼女は彼のことが好きだったし、他の令嬢を遠ざけて、自分だけの婚約者だと言い続けていた。その思いは、今もある。ただ、それはあまり強くない。
(なんつーか。恋愛っていうより、憧れに近い気持ちなんだよな。近所のかっこいいお兄ちゃん、みてえな……。そりゃあ、小学生に恋愛なんて、早ぇーだろうが)
だから彼も、違和感を持たずに、その気持ちを受け入れていた。クリスティアンは男の目から見ても美しく、整った顔だちをしている。
(頭も良くて、剣の腕も立つんだっけ。……いいよなぁ)
ジュリアは令嬢だ。外に出ることなんて、考えもしなかった。だが、孝太はスポーツ少年である。
(頼んだら、俺にも剣を振らせてくれねえかな。王子様だし、うまく人を遠ざけて……)
異世界に転生して、1番にやりたいことはそれだった。アプグラの世界に魔法はないが、剣術や体術は存在している。
(せっかくだから習ってみたい! ……けど、これも普通じゃねえんだよな)
彼女は貴族だ。父に言えば、ある程度までなら望みも叶う。ただ、女性が運動を……まして剣術などを学びたいというのは、この世界では異常なことだ。
(でも、あいつならそうは思わない)
ジュリアはクリスのことを思い浮かべる。彼は現代日本から来た、転生者だ。同じ価値観を持っている。
(そもそもあいつも、男だけど乙女ゲームにハマってるしな。俺が剣を振りたいって言っても、気にしないだろ)
そう思いながら、彼女はイスから立ち上がった。そのままベッドに移動して横になり、かけ布団を被って目を閉じる。
(明日、聞いてみようかな……)
旅行前のような、ワクワクとした気持ちで。ジュリアはそのまま眠りについた。同じ転生者と出会えたことを、心の底から喜びながら。




