第131話:話し合い(前編)
「お前は来るなよ」
ジュリアの決意を読み取って、シリルは冷たい声で告げた。
「……なぜですか」
彼女は鋭く切り返す。その目を見すえて、男は続けた。
「いざというときに、お前を守れるヤツはいない。今回は、クリスティアンも守られる側だ」
「だから、私が――」
「ふざけんな。……メルヴィンは、クリス様を傷つけるためなら、実の妹だって殺せるだろうよ」
シリルの声は低かった。彼は容赦のない言葉で、ジュリアとクリスを黙らせる。
「……では、せめて。お父様と、お話します。国王陛下のご葬儀なら、あの人も出席されるはず。お兄様には、近づかなければよいのでしょう?」
それでもジュリアは引かなかった。彼女はシリルとにらみ合う。
「そこまでです」
そこにフィリクスが口を挟む。彼は呆れ顔で、2人の間に割りこんだ。
「あなたがたが言い争うことほど、ムダなことはありません。それは殿下のお心を痛めるだけです。よろしいですね?」
熱くなっていた2人は、その言葉で我に返る。クリスはずっと、青い顔でうつむいていた。
「……ごめんなさい」
「……いや。オレのほうこそ、言いすぎた」
同時に謝る。そんな2人に、クリスは心配そうなまなざしを向けた。
「……僕だけでいいよ」
ポツリとつぶやかれた言葉。その場にいる人々が、彼を見る。ひび割れた声。今にも泣きだしそうな顔で、彼は続けた。
「葬儀に出るのは、僕とマイルズだけでいい」
「……それは後で、お話しましょう」
マイルズがクリスの両肩を掴む。彼は無理やり、主人をイスに座らせた。
「今はもう、何も考えずお休みください」
シリルが黙って部屋から出ていく。ジュリアはもう1つのイスを持ってきて、クリスの隣に腰を下ろした。
「大丈夫。私はここにおりますから」
彼女が彼の手を握る。フィリクスはその姿を見て、目を細めた。
(ジュリア様やシリルだけではなく、私も……。あのかたにとっては、守るべき存在なのか)
胸が苦しい。フィリクスにとって、クリスティアンはただ1人の敬愛すべき主人だ。だが、クリスにとってはそうではない。
(今さら、何を……初めから、私はわかっていたはずだ)
余計な感情を切り捨てるために、彼は目を閉じて深呼吸をする。そこに部屋のドアが開いて、両手に色々なものを持ったシリルが戻ってきた。
「食料庫からちょろまかしてきた。後でごまかしておいてくれよ」
彼の言葉に、フィリクスは無言でうなずく。机の上に陶器の水さしと、パンの袋とハムの塊が置かれた。




