第129話:継承準備(後編)
「申し訳ありません。近衛の隊長として任じられておきながら、後手に回ってしまいました」
体を覆うアーマーが、こすれあって音を立てる。大きな体を丸めて、マイルズは言った。
「その上、事後処理のせいで、クリスティアン様の式にも行けず。あなた様のお手をわずらわせてしまうとは、末代までの恥です」
「……大丈夫だよ。結果的に、ケガもなかったし」
クリスは苦笑を浮かべて返す。それでもマイルズは顔を上げず、低い声で続けた。
「いえ、すべて私の責任です。ブランソン様にお声をかけられなければ、死んでお詫びするところでした」
「……それは困ると、申し上げたのですよ。私はエリクソン伯に、クリスティアン様の剣となっていただくつもりだったのですから」
彼を連れてきたフィリクスが、横から会話に口を挟む。ジュリアはずっと、ポカンとしていた。
(王ってこういうものなのか)
彼女も公爵家の娘だ。他の貴族から、丁重に扱われたこともある。だが、マイルズやフィリクスの態度は、それ以上だった。
「ありがとう。ジュリアのことも、よろしくね」
そしてクリスは、自然とそれを受け入れている。彼はイスから立ち上がり、マイルズの前に立って告げた。
「僕もフィリクスと同じ意見だ。……君に死なれるのは困る。これから僕のために働いてくれるのなら、今までのことは水に流そう」
「……はい。お任せください」
頭を下げたまま、彼が答える。そこにシリルも戻ってきた。彼は王宮から持ってきた紙の束を抱えたまま、部屋の中に入ってくる。
「待たせたな」
彼はマイルズには目もくれず、クリスに近づいた。その頭をなでて、クリスが微笑む。
「そんなに待ってないよ。……ところでフィリクス。お父様が崩御された件については、調査したの?」
「もちろんです。そもそも、本来なら病床の陛下に謁見できるのは、専属の医師のみであるはず。無理を通せるということは、それなりの地位がある証拠です」
「……たとえばメルヴィン公子とか?」
クリスの口から出てきた名前に、ジュリアは息が止まりそうになった。フィリクスは真顔で返す。
「さすがですね」
それだけで、彼女にもわかった。フィリクスもまた、その人が犯人だと考えているのだろう。
(……お兄様)
最後に会ったのは、実家の地下牢。そのときから、うっすらと感じていた。彼の愛情は、人とは違うと。
(あなたは何を、考えているの?)
クリスティアンが彼女のほうを見て、心配そうな顔をする。ジュリアは黙って立ち上がった。




