第128話:継承準備(中編)
こうして、シリルとフィリクスが部屋から出ていく。そしてクリスは、ジュリアと一緒に残された。
「……ベッドからは出ていいよね」
「……まあ、いいけど。シリルたちが戻るまで、ここにはいろよ」
彼女はそう言って手を離す。彼は安心した様子で、ベッドからイスに移った。それに合わせて、ジュリアもベッドの中央から、端に移動して腰かける。
「僕だって、剣があれば戦えるのに。体術も、マイルズから教わっているんだよ?」
「そんなのは、何もないときの最終手段だろ。使わねえのが1番だ」
つまらなそうに、クリスがつぶやく。彼女は目を細めて、呆れた様子を見せた。彼はその態度も、しかたがないと受け入れる。
(……みんな、僕のことを心配してくれているんだから)
両手の指を組みあわせて、そのまま腕ごと体を伸ばす。左手の指輪が、部屋の照明を反射してキラリと光った。
「……ふふ」
自然と笑みがこぼれてくる。クリスはノビをした後に、ジュリアに向かって微笑んだ。
「ねえ。2人きりのときは、孝太くんって呼ぶべきなのかな?」
「……別にいいよ、どっちでも」
不意打ちを受けて、彼女は頬を赤らめる。
「俺もお前も、こっちの名前に慣れてるだろ。だからいい」
名前どころか、性別まで変わって。違和感がなかったわけではない。それはきっと、どちらも同じだ。そんなことを思いながら、彼女は彼のほうを見た。
「それに、俺はジュリアって呼ばれるのも好きなんだ。お前だって、そうだろう?」
イスに座ったクリスが微笑む。それは無言の肯定だった。部屋のドアが、ノックされる。
「……どなたですか?」
ジュリアは表情を引きしめた。外から声が返ってくる。
「私です。エリクソン伯をお連れしました」
事務的な言葉は、フィリクスのものだ。2人は黙って入り口を見る。ドアがゆっくりと開けられて、そこから見覚えのある男が入ってきた。フルプレートアーマーを着た、大柄な男……マイルズだ。
「……クリスティアン様。ご報告に、参りました」
片手に兜を抱えて、重い顔をしていた男は、低くしゃがれた声で言う。彼はクリスに向かって、深々と頭を下げた。
「どうか落ちついてお聞きください。国王陛下が、亡くなられました」
「え……」
早すぎる。真っ先に、クリスが思ったのはそれだ。だが、次に続けられた言葉は、もっと信じられないもの。
「謀反です。どなたかが、陛下を暗殺されました」
「そんな、バカな……!」
(ありえない。フィリクスの計画では、それは最終手段のはずだ。そもそも彼には、そんなことをする意味はない。……なら、誰が? 誰に、父さんを殺す意味があるんだ)
衝撃と困惑で、クリスティアンは固まってしまう。ジュリアも何も言えなかった。




