第127話:継承準備(前編)
「おはようございます」
翌朝。目がさめたクリスは、微笑むジュリアと目があった。
「……おはよう、ジュリア」
起き上がろうとして、上半身を起こしたところで。彼は彼女に引き止められる。ベッドに転がったままのジュリアが、穏やかな笑みを浮かべて言った。
「ダメですよ。あなたはここで、寝ていてください」
「いや、でも……何か、できることがあるかもだし」
「あるとしても、あなたがする必要はありません」
そんな言い合いをしていると、小部屋のドアが少し開いた。シリルがドアの隙間から出てきて、ベッドのほうをチラリと見る。
「何をしているんだ、お前たちは」
「ああ……いや、ジュリアが寝ようと言ってきたんだ。でも、ずっとベッドの上にいるのもどうかと思って……」
「そうか。ヒマならボードゲームでもしてろ。……昨日も話したが、今、お前に死なれるのが1番困る。この屋敷だって、絶対に安全なわけじゃねえんだ。フィリクスの父親が、グラファ公爵と手を組むかもしれねえしな」
そこで言葉を切って、シリルはクリスを見すえて告げた。
「だから、エリクソン伯爵がここに来るまでは、部屋から出ないようにしてくれ。必要なものは、オレが調達してきてやる」
「エリクソン伯爵?」
聞き慣れない名に、ジュリアが首をかしげる。クリスは目を伏せてつぶやいた。
「マイルズのことだよ。彼も一応、貴族なんだ。パーティーに出席するような立場ではないから、あまり知られていないけどね」
「……ですが、彼は王家に忠誠を誓っている数少ない貴族のうちの1人です」
小部屋の奥から姿を見せつつ、フィリクスが会話に口をだす。彼は真顔でクリスを見すえた。
「国王陛下が倒れた今、その正当な後継者であるクリスティアン様を守るのは、エリクソン伯にとっても急務。しらせれば、必ず応えてくださるでしょう」
「そういうことだ。……エリクソン伯が到着するまでは、オレが代わりに守ってやる」
2人とも真顔だ。ジュリアも横でうなずいている。そうなると、クリスも強くは言えなくて。彼は黙って、受け入れた。そんな彼を見て、シリルが表情を和らげる。
「……まあ、メシと水は持ってきてやる。他に欲しい物はあるか?」
「ああ、それなら……」
クリスはシリルを手招いた。近寄ってきた彼の耳もとで、ひそめた声でクリスは続ける。
「僕の部屋に、大切な書類があるんだ。それを取ってきてほしい。カギがついた引き出しに入ってるから」
そう言って、クリスはシリルにカギを渡す。シリルは受け取ったカギを握りしめて、言葉を返した。
「任せてくれ」




