第123話:フィリクスの変化(前編)
クリスたちが医者の家に行ったころ、フィリクスはやっと、後始末を終えて帰っていた。
「……おや? クリスティアン様は、どこに行かれたのですか? お姿が見当たらないようですが……」
自室に戻る前に、声だけかけておこうと思って。彼は王子の姿を探す。使用人たちに聞いても、誰も居場所を知らなかった。
「ああ。あのかたでしたら、裏から出ていかれましたよ」
最後に話しかけた門番が、そんな言葉を返してくる。フィリクスは凍りつくような思いがした。
「……行き先は?」
「さあ……特には聞いておりません」
「帰る、時間は」
「それも特には。……何かありましたか?」
「……いえ、何も」
かろうじて、それだけ言って。フィリクスはよろよろとその場を離れた。
(何をしているんだ。今の状況で、街の……それも、治安の悪いほうの道に出るとは)
クリスティアンだけではない。ジュリアとシリルもいなくなっている。それを確認して、彼は自分に言い聞かせた。
(心配はない。シリルがいるなら、おそらく無事に帰るだろう)
そう思っていても、心はまったく落ちつかない。クリスに何かあったらと思うだけで、目の前が暗くなって、足がうまく動かなくなる。
(当たり前だ。あの男に何かあれば、私の計画が壊れてしまう)
もしも、彼が大ケガを負って帰ってきたら。そんな想像をしただけで、息がうまくできなくなる。
(……医者を呼んでおくべきか?)
そこまで考えたところで、彼は気づいた。まだ、何も起こっていないということに。
(私は、何を)
頭の中に、クリスティアンの顔が浮かぶ。彼を失いたくないと、強く思った。
(何を、バカな……あの男がいなくなったとしても、次の王になれる人間は残っている。今度は、そちらと手を組めばいいだけだ)
そんな考えが浮かんでしまって、フィリクスは自分のことが心底イヤになった。
(私は何を考えているんだ。王には代わりがいるかもしれないが、クリスティアンの代わりが務まる人間など、どこにもいない)
フラつく足で空き部屋に入って、彼は床にヒザをつき、イスにすがった。
(……そうか。私はもう、クリスティアン様のことを認めていたのか。彼以外の人間に仕えることなど、考えられないほどに……)
深呼吸して、立ち上がる。
(どうせ落ちつけないのなら、裏口のそばに立っておけばいい。そうすれば、あのかたが帰ってきたとき、すぐにわかる)
空き部屋から出たフィリクスは、すでに決意を固めていた。クリスティアンが無事に戻ってきたら、この気持ちを伝えようと。




