第122話:ポウムの話(後編)
「わかっているよ。僕は様子を見にきただけだ」
クリスが微笑む。おかゆを食べ終わったポウムは、掠れた声でつぶやいた。
「……ありがとう、ございます」
か細く、頼りない音が口からもれる。パットは彼女を見つめて言った。
「良かったね。クリスティアン様が、ここに来てくれて。ずっとお礼が言いたかったんだろう?」
ポウムがうなずく。医者は彼女の体を支えて、再び寝かせた。
「……アンタは良い王になるだろう」
彼はポツリとつぶやいた。クリスがグッと、手を握る。
(みんな、僕を……私を信じてくれているんだ)
誰のことも裏切りたくない。力が欲しい。そう思った彼の手を、ジュリアの手のひらが包みこむ。クリスはそれに驚いて、握っていた手を開いた。彼と彼女は、手を組みなおして笑いあう。
(相変わらず、仲がいいな)
2人の手には、同じ形の指輪があった。シリルはそれを、見ていることしかできない。
(……結局、オレは間には入れないのか)
胸が痛む。それを堪えて、彼は前を向いた。
「なあ、兄さん。長居するのは良くないんじゃないか」
「……ああ。そうだね、確かに」
クリスがうなずき、ジュリアの手を取ったまま言葉を続ける。
「では、僕たちはこれで失礼します」
医者は黙って、代わりにパットが、ポウムのそばを離れて入り口に向かった。
「クリスティアン様。あなたはこれから、きっとお忙しくなると思います。なので、無理に来ていただく必要はありません。ポウムがまた歩けるようになったら、今度はこちらから伺います」
そう言いながら、彼は裏口のドアを開けた。クリスが微笑み、シリルを見る。
「……君は、どうする?」
ジュリアと繋いでいないほうの手を差しだして、彼は首をかしげた。シリルは無言で近づいて、その手を取る。
「……気づいてたのか?」
「うん。何となく、落ちこんでるなって……」
小さな声で話しながら、3人は家の外に出た。シリルが笑みを深めて続ける。
「兄さんは、いつも気を使ってくれるな。……ありがとう」
「別に……これくらいは普通じゃない?」
クリスは不思議そうな顔をしていた。ジュリアが少し、足を速める。医者の家は良くても、裏路地にはあまり留まりたくない。彼女はそう思っていた。
(……まあ、オレも同じ気持ちだが。こっちにいるヤツらは、王族を憎んでいることが多いからな)
そしてシリルは、路地に倒れている浮浪者のことを知っていたから、何も言わずについていく。2人に挟まれたクリスは、よくわからないまま連れていかれた。




