第120話:次代の王
「おお……!」
参列者たちが頭を下げる。神父は無言で手を合わせた。
(完璧だな)
フィリクスは、その光景を見て笑う。目の前で、シリルが作業を終わらせて、クリスティアンに駆け寄っていた。
「お待たせしました」
彼は笑顔で、クリスに話しかける。クリスは柔らかな笑みを浮かべた。
「お疲れ様。ありがとう」
使用人が医者を連れて戻ってくる。シリルは倒れた男のほうを見ていた。小さな声で、彼がつぶやく。
「……なあ、兄さん。今回は何とかなったからいいが、次もそうだとは限らない。あなたが優しいことはわかっているが、王になるというのなら、もう少し考えて行動してくれ。……オレはあなたを、失いたくない」
シリルはとても真剣だった。クリスは目を伏せ、ジュリアは彼の目を見返す。
「シリル。クリス様は、きっとわかっていらっしゃいます。……ねえ、そうでしょう? 無傷で捕まえられる自信がなければ、あのようなことは言わなかったのではありませんか」
ジュリアの問いに、クリスは小さくうなずいた。フィリクスが3人の元に歩みよって、声をかける。
「お2人とも、そろそろ……」
彼に促されて、クリスはジュリアを抱いたまま神殿の外に向かう。シリルも彼らについてきた。
「では、後は私に任せてください」
神殿を出るとき、フィリクスはそんなことを言った。ジュリアはチラリとクリスを見た。彼は穏やかに微笑んでいる。
「……本当に、帰っていいのか?」
馬車に乗ってから、彼女が聞いた。クリスは表情を引きしめる。
「うん。……フィリクスは抜け目のない男だ。本当に警戒すべきなのは、僕が王になった後だよ。彼は、シリルが率いる革命軍のことを歓迎していないから」
「え? なんでだよ。初めから協力してるのに」
ジュリアの問いに答えたのは、クリスではなくシリルだった。彼は渋い表情で足を組む。
「ヤツはオレたちのことを考えているんじゃない。ただ、自分だけの力として便利に使えるから、協力するフリをしているだけだ」
「……なるほど。お前がフィリクスを信用しないのは、そのせいか」
「ヤツだけじゃない。お前たち以外の貴族は、誰も信用する気がない」
ジュリアとシリルが会話する。彼は深くため息をついた。
「……それに、オレ以外のヤツらには、お前たちのことを話しても信じないだろう。中にはフィリクスから金をもらって動いている人間もいる」
「革命軍に参加する人の思想も、それぞれで違っていたりするだろうしね。国の弾圧に耐えきれず、食いつめて参加したような人間には、明日の食べ物を得ることのほうが重要だから」
クリスが横から口を出した。シリルは目を見開いて、感心したような声を出す。
「よくわかってるな。そのとおりだ。それもゲームとやらから得た知識か?」
「ゲームにこんな話は出てこないよ。……僕は子供のころに、色々なところに忍びこんで調べていたんだ」
笑顔で語るクリスを見て、シリルとジュリアは目を細めた。彼はいつも、自分の身の安全を後回しにする。2人には、何よりそれが許せなかった。
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