第118話:結婚式(後編)
「知ったことか」
フードの男がつぶやいた。クリスはジュリアを抱いたまま、薄く笑う。
「では、神の代わりに僕が罰を下すとしよう」
殴りかかってきた男を避けて、彼は回し蹴りで相手を沈めた。そのまま体を回転させて、別の男か振り下ろした剣を、自らの刃で受け止める。
「何……!?」
男が叫ぶ。驚きと恐怖がこもった声を聞きながら、彼は相手の剣を押しのけた。
「お前たちは、僕のことをお飾りの王子だと思っていたんだろう。だが、僕は知っていた。力がなければ、誰のことも守れないと」
ジュリアの体に回されている手に、力が入る。彼女は彼の顔を見上げた。
(……そうか。お前は、ずっと……)
クリスティアンになろうとしたのは事実だろう。だが、それだけではない。彼女はクーデターに備えて、剣の腕を磨いていた。
「ギャア……!」
2人の背後にいた男が、背中から斬られて倒れこむ。赤い液体が、神殿に飛び散った。
「遅くなった」
その後ろには、剣をかまえたシリルが立っている。クリスは目を細めて告げた。
「……シリル。人殺しはダメだよ」
「致命傷は負わせてない。すぐに手当てをすれば助かるはずだ」
そう言いながらも、彼は冷たい顔をしている。刺客の命など、どうでもいいと思っていることは、ジュリアにもわかった。
「しかたがないな。すぐに片づけて、医者に見せよう」
クリスが剣を持ちなおす。その足さばきが、少し変わった。素早い動きを特徴とするダンスに。
「ふっ――」
ジュリアは慌てて、彼に合わせる。目まぐるしく動く視界の中で、フードの男たちが次々と倒れていった。
「……兄さんは、優しいな」
シリルが笑う。ジュリアのために、クリスはあえて、速度を落としていた。それでも、急に動きが変わったことで、刺客たちは追いつけていない。
「姉さんを守りながら、あいつらを殺さずに無力化するなんて。さすがオレの兄さんだ」
男たちの後ろにいた人物が、逃げようとして後ずさる。シリルはそれを見逃さなかった。一瞬で間合いを詰めて、彼は相手を取り押さえる。
「ぐっ……!」
「逃げるな」
シリルはナイフを逆さまにして、その柄を男の口の中に押しこんだ。そして無理やり開けた口に手を入れて、奥歯に仕込まれた毒を取りだす。
「オレはお前の命なんざ、どうでもいいと思ってる。生かしておいても、どうせ何も吐かないだろうからな。だけどこれは、他でもない兄さんの命だ」
毒の入った義歯を投げ捨てて、彼は笑った。押し倒されている男が、目をみはる。
「お前は……!」
「はは。何言ってんのか、わかんねえな」
かつて、シリルと男は同じだった。貴族が嫌いで、誰のことも信じず、金を稼ぐためなら何でもする。
(だけどもう、そんな生活は今日で終わりだ)
男を見下ろして、シリルは思う。これからは、家族のために生きようと。




