第117話:結婚式(中編)
目の前には祭壇があり、そのそばには神父がいる。2人の入場に合わせて、楽団が演奏を始めた。赤いカーペットの上を進み、彼らは神父の前で止まる。
「お集まりの皆様に、神のご加護がありますように」
男の言葉が神殿に響く。それは、儀式の始まりを告げる合図だった。
「これより、クリスティアン・ノーランドとジュリア・グラファの婚姻の儀を執り行います」
集まった参列者たちが拍手する。その中には、フィリクスもいた。神父は手を上げて、拍手を止める。
「では、クリスティアン。あなたはジュリアをただ1人の妻として愛し、いかなる時でもそばにいることを誓いますか?」
「誓います」
彼の言葉に、クリスは胸を張って返した。神父は続いて、ジュリアを見る。
「では、ジュリア。あなたはクリスティアンをただ1人の夫として愛し、いかなる時でもそばにいることを誓いますか?」
「誓います」
再び拍手が起こる。それを止めて、神父は言った。
「では、指輪の交換を」
彼の従者が進み出てくる。その手に、指輪の乗った銀色のトレーを掲げて。クリスは細い指で、金色に光る指輪を取った。続けてジュリアも、手を伸ばす。
(……そろそろ、来るよ)
彼はこっそりと、ジュリアに向かって目くばせした。そして彼女の左手を取る。その瞬間に。
「何者だ!」
神殿の入り口から、鋭い声が聞こえてくる。柱の影に隠れていた男たちが、姿を見せた。全員が、フードで顔を覆っている。
「ひ、ひぃ!」
「何者だ……! や、やめろ!」
参列者が叫ぶ。フィリクスは彼らをなだめて、神殿から遠ざけようとした。男たちも、客にはかまわず、クリスのほうに向かってくる。
「騒がしいな」
そう言いながら、彼はジュリアの薬指に指輪をはめた。そして手の甲にキスをする。
「さあ、君も。先に儀式を終わらせるんだ」
彼女の手を離して、彼は次に、自分の左手を差しだす。ジュリアは黙ってうなずいた。震える手で、彼の薬指に指輪をはめる。
「ありがとう」
ジュリアがクリスの手の甲にキスをすると、彼は微笑んで、彼女の体に腕を回した。そしてゆっくりと、回りだす。
(ワルツの動きだ)
慣れた動きに、自然と体がついていく。ジュリアを背中から突き刺そうとしたナイフが、クリスの剣に弾かれた。
(……いつの間に抜いたんだ、こいつ)
彼は左の腰に差した剣の柄を、逆手で握りしめている。ジュリアは黙って、彼の体に腕を回した。その間に、クリスが剣を右手に持ちかえる。
「ありがとう」
彼はポツリとつぶやいた。尻もちをついていた神父が、震えながら声を上げる。
「お、お前たち……! お前たちには、神罰が下るぞ!!」




