第116話:結婚式(前編)
2人の結婚式は、王都の大神殿で開かれることになった。
「とてもお綺麗ですよ、ジュリア様」
朝の支度を手伝う使用人は、ポウムではない。彼女は今も、医者の元で眠っている。
(今日の式で、少しでも良い方向に変えられたらいいな)
そう思いながら、ジュリアは使用人に礼を言った。
「……ありがとう」
白いシルクのドレスを、ふわりと揺らして彼女は立つ。ドレスの刺繍が、照明の光を反射して輝いた。まとめられた金色の髪には、サファイアがはめられた髪どめが付けられている。
「行ってくるわ」
部屋の外では、クリスティアンが待っていた。彼女と同じ、白い上着とズボンを着て、エメラルドがはめられた髪どめを付けている。
(……本当に、俺はこいつと結婚するんだ)
髪どめの宝石は、相手の瞳の色に合わせるものだ。青い目を見つめて、彼女は彼の腕を取る。2人はそのまま、外に停めてある馬車に向かった。
「シリルは先に、神殿に行ったそうだよ」
「フィリクス様は?」
「彼は参列者だから、僕たちとは別の馬車に乗る。式場では会えると思うけど、会話できるかはわからないな」
そんなことを話しながら、2人は馬車で神殿に行く。ジュリアは不安を隠せなかった。
「……結婚式は、無事に終わると思いますか?」
「わからないな。これも新しいイベントだから」
だけど、と。クリスは腰の剣を見せる。
「王族の正装は、武器を持つのが普通なんだ。刃をつぶしていない、本物の剣を。こういうときのために」
「守られるだけ、なんて……」
ジュリアは言い返そうとした。そのまっすぐな目を見つめて、彼は優しい笑みを浮かべる。
「違うよ、ジュリア。君も僕と戦うんだ。ダンスは人並みにできるだろう? 僕の動きに合わせて、同じように移動してくれ。それだけで、僕は戦いやすくなる」
彼の言葉に、彼女は驚きで目をみはった。馬車が神殿の前につく。
「こんなことを頼めるのは、君だけだ。よろしくね」
御者がドアを開ける。だが、ジュリアは動けなかった。クリスの笑顔は、とてもまぶしい。
「……はい。クリスティアン様……」
彼に見とれて、彼女がつぶやく。その姿は、他人から見れば仲むつまじい、恋人どうしのように見えただろう。だけど本当は、少し違う。2人は無事に帰るために、お互いを守ることを誓っていた。
(こいつは、俺を信じてくれたんだ)
クリスの手を取って、ジュリアはゆっくりと馬車を下りる。向かう先は、結婚式場。2人の戦いの場だ。
(……よし)
神殿を見上げて、彼女は自分に気合いを入れる。手を繋いだまま、2人は赤いカーペットの上を歩いていった。




