第111話:ジュリアがいる意味(前編)
「……ああ、もちろん」
まっすぐな目をして、クリスが言う。
「約束しよう。僕は、君たちを大切にする王になると」
(立ち直りが早えなあ)
ジュリアは横から、彼を見ていた。キリッとした顔も、可愛いと思えてしまうのは、クリスのことを好きになったからなのかと考えながら。
「……よし。すぐにブランソン侯爵家に行くぞ」
シリルはドアのほうに向かった。クリスも鏡をパットに渡して立ち上がる。ジュリアは無言で、彼の手に自分の腕を絡めた。
3人は、そのまま裏口から出ていく。赤色に染まる裏路地を通って、彼らは侯爵家に向かった。
「おや、あなたは……」
裏門を守る衛兵が、クリスの顔を見て声を上げる。彼は声をひそめて返した。
「……詮索はするな。僕はフィリクスに用があるだけだ。ここに来たことも、誰にも話さないように」
そう言いながら、彼は門番に金貨を握らせる。門番は、黙って3人を中に入れた。
「……こんな時間に、どうしたんです」
騒ぎを聞きつけて、フィリクスが来る。クリスは小声でささやいた。
「メルヴィンが、僕たちの動きに気づきかけている。少し早いが、先に行動を起こすべきだ」
フィリクスの目が細められる。彼は3人を連れて、空き部屋に入った。そして、ため息と共に言葉を落とす。
「……しくじったのか」
「どう思われてもかまわない。ただ、僕は後悔していないよ。あの場でポウムを助けられなければ、革命を起こす意味なんてないから」
「フン、相変わらず甘い考えかただ」
フィリクスはクリスをにらみつける。冷ややかな声で、彼は続けた。
「まあいい。終わったことに、何を言ってもムダになる。重要なのは、これからのことだ。アンブラー伯爵家と、ベックウィズ侯爵家。それと、バーケット辺境伯にはすでに約束を取り付けてある。すぐに彼らに話を通そう」
フィリクスが口に出した名前は、すべて有力貴族のものだ。ジュリアはそのことに驚く。だが、次に続いた言葉には、それ以上の衝撃を受けた。
「まあ、お前の考えは正しかったな。婚約破棄をしていれば、今より面倒なことになっていただろう。婚約は、家と家の契約だ。ジュリアが王妃となる以上、グラファ家は、お前の王位継承に文句を言えない。後は、彼女が家と対立するだけだ」
「……はい?」
思わず聞き返してしまった。そんなジュリアに向かって、フィリクスは厳しい声音で告げる。
「家族と戦えないのなら、すぐに別れろ。国を変えるには、王妃の協力が不可欠だ」
クリスが心配そうな目を向けてきた。その表情を見て、彼女は気持ちを引きしめる。




