第112話:ジュリアがいる意味(中編)
「分かりました」
ジュリアはまっすぐ、前を向いて答えた。父や兄と戦うことに、不安がないわけではない。それでも彼女のそばには、クリスティアンがいてくれた。1人ではないと思えたから。
「私は、実家の操り人形にはなりません」
「……よし」
ジュリアの言葉を耳にして、ニヤリと笑ったフィリクスが、彼女とクリスを見つめて告げる。
「それなら問題はない。後は式を挙げるだけだな」
「……はい?」
ジュリアには意味が分からなかった。フィリクスが真顔で続ける。
「婚約は、家の事情で破棄できる。ジェイミー公爵が動く前に、正式な結婚式を挙げなければならない。この国では、離婚は許されないのだから」
クリスがうつむく。彼は苦々しげにつぶやいた。
「僕は反対したいけどね。彼女との結婚を、政治の道具にしたくはない」
「ある程度は、しかたがないだろう」
シリルが横から口を挟む。彼はジロリと2人を見た。
「お前らは貴族だ。心が通いあっているとしても、公的な儀式に政治的な思惑が絡むのは当然だろ」
「……君は、それでいいの?」
クリスが顔を上げて、彼の目を見る。シリルは無表情でうなずいた。
「ああ。どこまで行っても、オレはただの平民だ。……2人が納得できるなら、受け入れるよ」
(……マジか)
覚悟はしていたつもりだった。それでも少し不安になって、彼女はクリスに手を伸ばす。その手を彼は、しっかりと掴んだ。
「……大丈夫だよ」
クリスは無理やり、笑顔を作る。
「大切な君との結婚式だ。必ず最高の物にする。グラファ公爵にも、顔向けできるくらいにね」
「そこは私も保証しよう。我が家は侯爵家だが、公爵家にも負けない金と力は持っている」
フィリクスが初めて笑顔を見せた。彼は指を鳴らして、使用人を呼ぶ。
(……とんでもないことになってきたな)
目の前で使用人に指示を出す彼を見ながら、ジュリアはそっとため息をついた。クリスが心配そうな目で見てくる。
「……ごめんね、急な話をして」
「……いえ。それは確かに、驚きましたが……」
ひそひそと、2人は小声で話しだした。シリルが目立たないように近づいてくる。
「姉さんも転生者なんだろう? よくわからないが、ゲームとやらのことは知っているんじゃないのか」
「ゲームにこんな展開はないし、彼女は僕ほど詳しくないよ」
クリスは苦笑を浮かべていた。
「それに貴族の娘だからね。家の名前や子供の顔、格の違いくらいしか教わっていないだろう」
「……悪うございましたね」
つい、憎まれ口を叩いてしまう。そんなジュリアに、彼は優しいまなざしを向けた。




