第108話:地下牢(後編)
メルヴィンは笑って、何も言わずに手を離す。ジュリアはクリスを抱きしめたまま、尻もちをついた。
「じゃあね、クリス」
牢屋のカギを投げて、メルヴィンは先に階段を上がっていく。シリルは床に落ちたカギを拾って、ポウムが入っている牢の扉を開けた。
「……あ、う……」
ポウムがヨロヨロと、起き上がろうとする。シリルは彼女を見下ろしてはき捨てた。
「じっとしていろ」
彼は続けて、パットの牢のカギを開ける。彼は牢から飛びだして、ポウムに駆け寄った。
「……!」
枯れたノドを動かして、パットは懸命に声をかける。そうしながら、彼は彼女を助け起こした。
「……もう、いいよ」
ポウムはゆっくりと片手を上げて、パットの口をふさいだ。
「しゃべらないで。私は、わかってるから」
シリルがため息をつく。彼はチラリと横を見た。クリスは暗い顔で、うつむいている。
「……なあ、兄さん。どうしてあんなことを言ったんだ」
「それが1番、揉めごとがおきない。君だって、革命を成功させたいだろう?」
クリスの目は、真剣だった。ジュリアとシリルが凍りつく。
「革命……?」
ポウムが首をかしげる。パットは黙って、クリスを見た。彼は1度深呼吸をして、顔をあげる。
「ああ。僕は、君たちが幸せに暮らせる国を作りたいんだ」
ウソではない。それくらいは、パットにもわかった。彼が地下牢まで下りてきたことが、何よりの証拠だ。
(でも、なぜ……?)
彼は生まれながらの貴族だ。使用人は人間ではないという価値観の中で育ってきたはず。そんな思いが、パットの頭の中に浮かぶ。
「……好きだからだよ」
戸惑う彼に、クリスは告げた。
「僕は君たちに、幸せになってほしいんだ。そのために、世界を変えようと思っている」
穏やかな声で、ハッキリと宣言する。その言葉が、地下の壁に反響した。
「ありがとうございます、旦那様」
ポウムが安心したように微笑む。彼女は立ち上がろうとしたが、足に力が入らなくて立てなかった。
「動かなくていい。僕が抱えてあげるから」
そう言って、クリスはジュリアの腕をはずした。彼女は少し不満そうにしたものの、何も言わずに、彼を見送る。クリスはゆっくりと、牢の中に入っていった。パットの前に、大きな手が差し出される。
「……さあ、君も。一緒にお医者さんに行こう。ここに勤めている医師よりも、外の人間のほうが信用できるだろう?」
彼は黙って目をそらした。シリルが先に立って歩く。
「医者はオレが紹介する。こっちだ」




