第106話:彼らと彼女のすれ違い(後編)
(……これでは、足りない)
手をつないだまま、シリルは思った。クリスとジュリアは、服屋によって服を着替える。王子と婚約者に戻った2人は、そのまま並んで外に出た。
(姉さんは兄さんの隣にいられる。なら、オレは?)
シリルはただの孤児だ。革命が成功したとしても、王家の人間として認められることはない。公爵家の養子にはなれるかもしれないが、それを決めるのはジュリアではなく、彼女の父とその息子だ。
(なぜなら、姉さんは公爵家を継がないから)
王になるクリスティアンと、その妻になるジュリア。シリルが生まれるはるか前から、定められていた運命。
(イヤだ)
心が叫ぶ。家族を手放したくないと。
(オレも同じ場所に行きたい)
堂々と兄の手を取って。並んで歩くことだけでも許されたい。そう思いながら、彼は2人に連れられて公爵家の敷地に入った。
「……シリル」
振り返って、クリスが聞く。
「大丈夫?」
「……はい」
顔を上げて、シリルは答える。いつもそうだ。クリスは立ち止まっている彼に気づいて、手を引いてくれる。
(……好きだ)
精いっぱいの思いをこめて、彼は兄の目を見つめた。その奥にいる、日奈という少女まで届くように。
「……っ」
乙女ゲームのスチルにはない、その真剣なまなざしに。クリスは何も言えなくなった。
(ズルい)
主人公と自分は別。そういうプレイスタイルだった。だから彼女は、ポウムを1番大切にしてくれる相手が好きだった。だけど今、クリスが見ているのは自分だ。思ってもみなかった展開に、彼は立ち止まってしまう。横にいたジュリアがそれを見て、ため息をつきながら口を開いた。
「何をしてるの。ポウムたちを連れだすのが先でしょう」
屋敷はブキミなほどに静まりかえっている。そのことに気づいて、クリスは意識を切り替えた。シリルも黙って姉に従う。廊下の向こうから歩いてきた使用人を見つけて、ジュリアはキツい声をだした。
「……ちょっと、あなた」
「あ、はい! お帰りなさいませ、ジュリア様。私に何かご用ですか?」
「あなたじゃなくて、ポウムのほうよ。あの子はどこ?」
「ポウムですか? 確か、勝手に外に出たとかで、メルヴィン様におしおきされておりますが……」
何も知らないメイドが答える。その言葉に、クリスは背すじが寒くなった。
(……地下牢イベントだ。メルヴィンのルートでもないのに、なぜ……)
考えこむ彼の服を、シリルが引っぱる。彼は小さな声で言った。
「それならなおさら、早く助けださないとヤバいだろ。どこにいるのか、わかるなら教えろ」




