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悪役令嬢(男)と攻略対象(女)、理不尽な乙女ゲームの世界を変える  作者: 文字書きA


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105/119

第105話:彼らと彼女のすれ違い(前編)

シリルはそれから、クリスに張りついて離れなくなった。


「兄さん……。いなくならないで。オレを捨てないで……」


「捨てるわけがないだろう」


彼はもう元に戻っている。シリルの頭を撫でながら、笑顔で彼を引き連れて、路地裏(ろじうら)を通っていた。


(……くそ)


ジュリアは少し後ろから、その姿を見ているしかない。両手を強く握りしめて、彼女は唇(くちびる)をキュッとさせた。


「……クリス様」


前に出て、彼女は彼に声をかける。何も知らない彼は、立ち止まって振り返った。


「うん? 何?」


「……ポウムとパットを、王宮に呼びましょう。きっと2人は、先に屋敷に戻っています」


「……ああ、そうだね」


彼が真剣な顔をする。


「これからは、ゲームにはないイベントが起きるかもしれない」


「革命(かくめい)の時期も早めるか? 国王が動けない今なら……」


「いや、それは待ってくれ。まだ重要なイベントが終わっていない」


シリルと彼が小声で話す。ジュリアは懐(ふところ)からリストを出した。並べられた文字の中から、彼が重視しているものを探す。


「……騎士の誓いか?」


やがて彼女はそれを見つけた。ポウムたちのデートから、1ヶ月たったころに起こるイベント。


(眠り続ける王を見て、フェリクスが裏でマイルズに頼む。クリスティアンを王として、仕えることを選んでくれと)


革命のきっかけ。最初に踏(ふ)みだすのは彼だ。


「……なあ。それならフェリクスを、攻略しようとは思わないのか」


クリスが目を伏せる。彼も心の中ではわかっていた。それが1番、話が早いと。


「……でも、ダメだよ」


個別ルートには入らない。そう決めた。


「自覚したから、僕は別の形で、フェリクスに認めてもらわないといけない。……大丈夫。彼は自分の利益となるなら、細かいことは気にしない男だ」


強い口調で言いきられて、ジュリアは何も言えなくなる。シリルが冷ややかな笑みを浮かべた。


「姉さんはポウムたちを見ていてくれ。あの男と会う場所は、オレが用意する」


恋人となることを断られても、力になりたいという気持ちは消えない。相手(ライバル)の上に立ちたいという思いも。


「……ああ、わかった」


それでもジュリアは受け入れるしかなかった。彼女がいては、フェリクスに怪(あや)しまれてしまうから。


「……なあ、クリス。代わりに1つだけ教えてくれ。……オレはお前の、前世の名前が知りたい」


「……日奈(ひな)だよ。佐藤日奈」


優しい声で、彼が答える。ジュリアは泣きそうになった。


「日奈か。いい名前だな。……俺は孝太(こうた)。鈴木孝太だ」


「孝太くんだね。……覚えておくよ。だからそんな顔をしないで。私は今も幸せだから」


彼の中にいる彼女は、ジュリアに近づいてその手を取った。


「せめて、王宮まで手を繋(つな)いでいこう。シリルも、ね?」


彼女も彼らの気持ちは理解している。何も返さないのは、誠実な答えではないと。だが、その思いやりも、彼らには毒と同じだった。

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