第103話:裏を知る(中編)
「泣くな」
シリルはまっすぐ、彼を見つめた。その向こうにいる彼女まで、見通すような強い視線で。
「……すまなかった。でも、ダメだ。……オレはあなたを愛してしまった」
クリスティアンが目を見開く。見つめあう2人に、ジュリアは横から声をかけた。
「……バカ野郎」
氷点下の声。凍りつくようなまなざしで、彼女は告げる。
「先に好きになったのは俺だ」
「やっぱりな」
シリルはあまり驚かなかった。事前に予想していたから。
「兄さんの中身は姉さんで、姉さんの中身は兄さんなのか」
「……え。そう、なの……?」
クリスがつぶやく。か細い声を耳にして、シリルはジュリアの手を振り払った。血がついたナイフを取りだして、彼は暗い笑みを見せる。
「そんなことにも気づかないで、愛を語っていたのか」
ジュリアはとっさに身構えた。クリスが叫ぶ。
「やめて、シリル!」
ジュリアに向かって、振り上げられたナイフが止まる。シリルはクリスのほうを見た。
「……兄、さん。初めてできた、オレの家族。大切な相手。……大好きな人。あなたもオレを否定するのか」
「待って、シリル……!」
クリスは慌てた。バッドエンドのスチルが見える。知っている。シリルは家族に嫌われるくらいなら、自ら死を選ぶ男だ。
「お願いだから……。私は全然、気にしてないから!!」
思わず大きな声が出た。自分の胸にナイフをつき刺そうとしていたシリルは、その寸前で手を止める。
「……本当か?」
かけ寄ってきたクリスが、シリルの前でヒザをつく。その頬に触れながら、クリスは優しい声をだした。
「本当よ。朝も、夜も。私のことを、見ていたのでしょう? むしろ、嬉しいわ。それだけ大切にされていたということだから」
(……そういうことか)
そこでようやく、ジュリアも気づいた。シリルはストーカー気質なところがあるのだと。
(そりゃあそうか、このゲームのキャラだもんな)
彼女が見守る前で、事態は動く。頬に添えられた手、柔らかなまなざしに見とれて、シリルはナイフを地面に落とす。カランと軽い音が鳴った。
「……嬉しい?」
子供のように、彼が聞く。クリスは目をそらさず、タンポポのような笑顔を見せた。
「うん。だから自分を傷つけないで。約束して。あなたの体は、私のものだと」
「オレの体は、姉さんのもの……」
シリルは完全に引きつけられ、心をクリスに奪われている。口にした『約束』は、彼を縛る鎖だった。
「そうよ、シリル。私のものに、勝手に傷をつけないで」
「……はい」
アッサリとうなずいて、シリルはフラフラと、彼に抱きつこうとする。ジュリアは横から手を伸ばして、その体を抱えた。




