第102話:裏を知る(前編)
森から出て、街道のすみを歩き、彼らは街の中に入る。クリスは門番に男たちを引き渡して、王宮に戻った。
「……さて」
客室に入り、ドアを閉めて、クリスはシリルのぼうを見る。
「僕たちには、生まれる前の記憶があるんだ」
「そうか」
彼は、特に反応しなかった。驚いたのは、むしろクリスたちのほうだ。
「……知ってたの?」
「いや、何かあるとは思っていたが、まさかこれが2度目の人生だとは思わなかった」
兄の質問にサラリと答えて、彼は笑う。
「だけど教えてもらえて良かった。兄さんがなんでも知っているのは、1度すべてを見たからなんだな」
「……いや、その」
クリスは口ごもりながら話した。ここが乙女ゲームの世界であること。自分がオタクだったこと。全員を幸せにしたいこと。
「……だから君のことも知ってた。今まで隠していてゴメン」
頭を下げて、体を縮める彼を見て、シリルは目を細めた。そろそろと、彼はクリスに手を伸ばす。
「何をしているんですか?」
ジュリアはその手を掴んで止めた。クリスがゆっくりと顔を上げる。彼女は気にせず、質問を続けた。
「……ねえ、シリル。あなたの愛は、家族としてのものですよね?」
「……姉さん」
シリルはニヤリと笑ってみせる。
「まだ分かっていないんですか。オレにはよくわかりませんが、乙女ゲームとは、女性向けに創作されている物なのでしょう。それを楽しんでいるということは、兄さんの心は、女性に寄っているんですよ」
部屋の中が静まりかえった。クリスはオロオロと、2人を見る。
「ど、どうしたの。僕……ううん、私は確かに女の子だったけど、今は男になってるんだよ?」
「…………は?」
ジュリアの思考が完全に止まった。言われたことが理解できない。そんな彼女に、シリルはバカにしたような笑みを向ける。
「なんだ、秘密を共有していたのに、そこには気づいていなかったのか。兄さんも可哀想に。女としての自分を抑えて、演技するのは辛かっただろう?」
「それは違うよ」
クリスが慌てて口を挟む。彼は固まったままのジュリアを見つめた。
「演技は最初だけだった。彼女にも、君にも。僕は今、本当の気持ちを伝えている。……ゲームとは違う展開になることもあるから」
穏やかな声。困ったように、笑う彼。その奥に、小さな女の子が重なって見えたような気がして。シリルとジュリアは、息を飲む。
「だから、シリルもそんなことを言わないで。僕はジュリアに、僕自身の思いを伝えていたつもりだから。……お願いだ。君のことを、嫌いになりたくないんだよ」




