第60話 陰謀論?(中原)
「ねえ佐々木」
「なんだ中原」
「佐々木と交換した問題集なんだけどさ」
「あたし、もう終わったぞ。中原、なかなかいいの使ってるじゃん」
「ありがと……。いや、そうじゃなくてさ、佐々木、こんな難しい問題集使ってたんだ……」
「どうだった?」
「ほとんどできなかった……」
先週、わたしたちは、お互いの問題集を交換し合った。
これで、北海道学院大学受験の情報を共有できる。
でも……。
「なんだか、自信なくしたよ……」
「まだ2年生なんだから、自信なくすの早いぞー」
「うう~」
問題集には、ところどころに佐々木の書き込みがあった。
最初は、温かみのある文字だな~などと思っていたのだが……。
書き込みもレベルが高い。どうすれば回答に結び付けられるか、といったことが適切に書かれている。
「ああ~。わたし、もっと頑張らないとね~」
わたしは、どっとコンビニのレジに顎をおろした。
「はしたないぞ~」
「てかさ~、これからはAI全盛期の時代を迎えるんだし、受験で替え玉できないかな~」
「替え玉したって、成績が伴なっていなかったら、合格してからが辛いぞ~」
「ごもっともで」
でも、そう思ってしまうくらい、高い壁がそびえている。
「ていうかさ、AIって、相当発展してるじゃん」
「そうだよな。この前も、作文をAIで書いてきて怒られてる人いたなー」
「まだバレるレベルかもしれないけど、そのうち分からなくなる時代も近いじゃん」
「そうだろうなー」
「そうしたら、きっとわたしたち、AIに乗っ取られちゃうじゃん」
「急に飛躍したなー」
「だって、最近AIが人類を滅ぼすとか言ってるじゃん。AI戦争だよ。パンデミックだよ」
「まあ、無いこともなさそうだから、怖いよな」
「それ考えると、もう頑張ってテスト勉強するのも意味ないんじゃないかな」
「どうせ死ぬならってやつかー」
「うんうん。楽しく生きようよ!」
そこへ、老夫婦客が入ってきた。
しばらく店の中をうろうろして、商品をレジに持ってくる。
じーさんの方が、商品をレジに置く。ばーさんは後ろで黙っている。
わたしは、商品をスキャンする。
「お支払方法は何にしましょうか?」
「あー、えーと、なんだっけ?」
「現金ですか?」
「いや、だから、アレだって、アレ」
「クレジットカードでしょうか?」
「いや、だから、違うって。なんとかかんとかっていう」
うう、分からない。なんとかかんとかって、なんだよ?」
たまらず、後ろのばーさんが、
「ペイ払いで」
と口を出した。
「は、はいどうぞ。読み取るのでスマホの画面を出してください」
「スマホの画面? えーと、分からんなー」
分からないって、家で練習くらいしてきてほしいものだけど……。
「あんたやって。老人には分からない」
でたよ、老人の必殺技、老人には分からない。
ただ、後ろのばーさんがたまりかねたようで、
「ちょっと、さっき教えたでしょ。ちゃんとスマホ開きなさいよ」
「あああ……」
じーさんは、あわてている。
「あんたは昔からそうなのよ。定年近くになった時も、ノストラダムスの予言で人類は滅びるんだの言いだして、お金を湯水のように使って」
「あああ~」
老夫婦はレジ前でペチャクチャ一通り喧嘩をして、なんとか電子マネーで支払って、帰っていった。
「ノストラダムスって言ってたな……」
「うん。1999年だっけ」
「中原、AIに人類滅ぼされるとか言ってると、ちょっとヤバいことになるかもな」
「うん。ちょっと、自重しないとだね……」
いつの時代にも、陰謀論みたいなものにはまって身を亡ぼす人はいるものだ。
くわばらくわばら、と思ったわたしだった……。




