↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
57/62

第57話 入試勉強の開拓(佐々木)

「ねえ佐々木」


「なんだ、中原」


「風邪よくなった? まだマスクしてるけど」


「ああ。まだ少し喉の痛みがあるけど、もう少しってところだな」


 先週のアルバイト、あたしは風邪を引いた中出て行って、具合が悪くなって倒れてしまった。


 折しも、中原には、あたしの一方的な嫉妬心から喧嘩を仕掛けておいて、その中原に助けてもらうという醜態を演じてしまった。


 おかげで、中原とは仲直りすることができたけれど、なんだか申し訳ないし、あたしは、本当にいかれている。自分が嫌になる。


 それに、なんだよ、中原はあたしの家に、看病にきてくれた。


 風邪でボーッとしていたのもあったけれど、あろうことか、あたしは、中原がお風呂に入っている時に、自分も一緒に入りにいってしまったのだ。


 うわー。あたのしのバカバカ。絶対、変なヤツだと思われた。


「ねえ、佐々木?」


「ひゃい!」


 思わず、変な声が出る。


「大丈夫? ちょっと顔、ほてってない?」


「あ、ああ。問題ない」


「熱あるなら、言ってよね」


 なんだか、恥ずかしい。


 コンビニの自動ドアが開いた。


「いらっしゃいませー」


 やってきたのは、赤坂さんだ。照れを隠したいところだったので、タイミングが良い。


「お疲れ様です。ちょっと買い物をー。お二人、いつも通りになったみたいですね」


 赤坂さんは、あたしと中原を見て、いつもと同じ様子に戻ったことを、すぐに把握したようだ。


「まったくー。そうならそうと言ってくださいよー。中原パイセン、せっかくアドレス交換したのに、全然連絡くれないんですもん」


「あ、ゴメンゴメン。ちょっとあの後、佐々木の家に泊まって、すっかり忘れてた」


「えっ!?」


 赤坂さんが、目を丸くしている。


 おい、中原、そんな恥ずかしいこと、言うなよ。


「あ、いや、ちょっと、これはさ……」


 中原は、言ってしまってから、しまった、と思ったようだ。


「ふっふっふー。やっぱり、そういうことなんですねー」


 赤坂さんが、不適な笑みを浮かべる。


「まあ、わたしとしては、二人が仲良くなったのを見て、安心しましたよ。ちょっと修羅場みたいなやつでしたから、こっちまで、居心地悪かったですからね」


「うう、ごめん」


「じゃあ、邪魔したら悪いですからね。これください。したっけー」


 赤坂さんは、すぐにコンビニを後にした。


「おい中原、いつの間に赤坂さんとメアド交換したんだよ。それに、泊まったこと言うなんて」


「いやー、つい口が滑ってー」


「まったく」


 でも、こんな話を、いつも通り中原と話せるのは、楽しい。


 それに、なんとなくだけど、中原とは、前よりも仲良くなれた気がする。


 いや、どうなんだろう。仲良く、というのとは、何か別の親密度のような気がする。それが何なのか、いまいち、よく分からない。


「ところで佐々木」


「なんだよ、中原?」


「風邪ひいてるのに、学校は行ってるの? 今日も制服でバイトにきていたけど」


「ああ。もちろん。授業はきちんと聞かないといけないからな」


「佐々木、北海道学院大学、目指してるんだよね」


「ああ。まだまだ合格に届くか分からないけれど、学力を上げるにも、そもそもあたしの家だと、塾にはとてもいけないから、学校の授業は聞き逃せないんだよ」


 北海道学院大学。北海道内でも指折りの大学だ。あたしのレベルでは、まだ難しそうだ。授業の内容を理解するくらいは、当然しておかなければならない。


「そうだよね。でも、無理しちゃ、ダメだよ」


「ああ。そうだな」


 なんだか、今日の中原は、妙に優しい。あたしの目を直視して、話しをしてくる。童顔のかわいらしい中原の目線に晒されると、照れてしまう。


「ところでさ」


 あたしは、話題をそらす。


「中原こそ、入試の勉強、はかどってるの?」


「えーと、そのことなんだけどさ」


「どうした?」


「わたしの学校、予備校の案内が結構来るんだ」


「そうなんだ。あたしの学校は、進学校でもないから、あんまりそういう案内、こないな」


「それでさ、無料の予備校の授業参加の案内が来てるんだ。他校の人を誘ってもいいんだって」


「マジ! 行きたい!?」


 ちょっと、あたしはグイグイと前のめりになってしまった。


「それじゃあ、申し込んでおいていい? 実は、わたしも、どう入試勉強していいかよく分からないところがあって。佐々木と一緒だと、色々教えてもらえるかなって」


「まったく、中原、前に参考書買いに行ったとき、どう勉強していいか分からないって言ってたもんな」


「アハハー。まあ、そういうことで、一つ、よろしくお願いいたします」


 中原は、ぺこりと頭を下げた。


 でも、嬉しいことだ。


 予備校の授業を聞けることもそうだけど、それ以上に、こうして中原が、あたしのことを誘ってくれる。


 もう、修復不可能かと思うくらいの喧嘩を、あたしの一方的な悪い感情でしかけてしまった。そんなあたしを、誘ってくれたのだ。


「なあ、中原」


「なに、佐々木?」


「中原、模試とか受けてる?」


「うん。学校でやってくれるからね」


「成績、どうなの?」


「うっ。わたしは、大器晩成(たいきばんせい)タイプなので……」


「がんばれよ……」


「晩成社(ばんせいしゃ)のように、入試勉強を開拓していきます……」


「依田勉三(よだべんぞう)もびっくりだな……」


 十勝(とかち)開拓の偉人を使った冗談を言っているけれども、それはさておき、本当に中原は大丈夫なのだろうか?


 まあ今回は、こうしていつも通りのあたし達に戻れたことだけで、よしとしようか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。