第57話 入試勉強の開拓(佐々木)
「ねえ佐々木」
「なんだ、中原」
「風邪よくなった? まだマスクしてるけど」
「ああ。まだ少し喉の痛みがあるけど、もう少しってところだな」
先週のアルバイト、あたしは風邪を引いた中出て行って、具合が悪くなって倒れてしまった。
折しも、中原には、あたしの一方的な嫉妬心から喧嘩を仕掛けておいて、その中原に助けてもらうという醜態を演じてしまった。
おかげで、中原とは仲直りすることができたけれど、なんだか申し訳ないし、あたしは、本当にいかれている。自分が嫌になる。
それに、なんだよ、中原はあたしの家に、看病にきてくれた。
風邪でボーッとしていたのもあったけれど、あろうことか、あたしは、中原がお風呂に入っている時に、自分も一緒に入りにいってしまったのだ。
うわー。あたのしのバカバカ。絶対、変なヤツだと思われた。
「ねえ、佐々木?」
「ひゃい!」
思わず、変な声が出る。
「大丈夫? ちょっと顔、ほてってない?」
「あ、ああ。問題ない」
「熱あるなら、言ってよね」
なんだか、恥ずかしい。
コンビニの自動ドアが開いた。
「いらっしゃいませー」
やってきたのは、赤坂さんだ。照れを隠したいところだったので、タイミングが良い。
「お疲れ様です。ちょっと買い物をー。お二人、いつも通りになったみたいですね」
赤坂さんは、あたしと中原を見て、いつもと同じ様子に戻ったことを、すぐに把握したようだ。
「まったくー。そうならそうと言ってくださいよー。中原パイセン、せっかくアドレス交換したのに、全然連絡くれないんですもん」
「あ、ゴメンゴメン。ちょっとあの後、佐々木の家に泊まって、すっかり忘れてた」
「えっ!?」
赤坂さんが、目を丸くしている。
おい、中原、そんな恥ずかしいこと、言うなよ。
「あ、いや、ちょっと、これはさ……」
中原は、言ってしまってから、しまった、と思ったようだ。
「ふっふっふー。やっぱり、そういうことなんですねー」
赤坂さんが、不適な笑みを浮かべる。
「まあ、わたしとしては、二人が仲良くなったのを見て、安心しましたよ。ちょっと修羅場みたいなやつでしたから、こっちまで、居心地悪かったですからね」
「うう、ごめん」
「じゃあ、邪魔したら悪いですからね。これください。したっけー」
赤坂さんは、すぐにコンビニを後にした。
「おい中原、いつの間に赤坂さんとメアド交換したんだよ。それに、泊まったこと言うなんて」
「いやー、つい口が滑ってー」
「まったく」
でも、こんな話を、いつも通り中原と話せるのは、楽しい。
それに、なんとなくだけど、中原とは、前よりも仲良くなれた気がする。
いや、どうなんだろう。仲良く、というのとは、何か別の親密度のような気がする。それが何なのか、いまいち、よく分からない。
「ところで佐々木」
「なんだよ、中原?」
「風邪ひいてるのに、学校は行ってるの? 今日も制服でバイトにきていたけど」
「ああ。もちろん。授業はきちんと聞かないといけないからな」
「佐々木、北海道学院大学、目指してるんだよね」
「ああ。まだまだ合格に届くか分からないけれど、学力を上げるにも、そもそもあたしの家だと、塾にはとてもいけないから、学校の授業は聞き逃せないんだよ」
北海道学院大学。北海道内でも指折りの大学だ。あたしのレベルでは、まだ難しそうだ。授業の内容を理解するくらいは、当然しておかなければならない。
「そうだよね。でも、無理しちゃ、ダメだよ」
「ああ。そうだな」
なんだか、今日の中原は、妙に優しい。あたしの目を直視して、話しをしてくる。童顔のかわいらしい中原の目線に晒されると、照れてしまう。
「ところでさ」
あたしは、話題をそらす。
「中原こそ、入試の勉強、はかどってるの?」
「えーと、そのことなんだけどさ」
「どうした?」
「わたしの学校、予備校の案内が結構来るんだ」
「そうなんだ。あたしの学校は、進学校でもないから、あんまりそういう案内、こないな」
「それでさ、無料の予備校の授業参加の案内が来てるんだ。他校の人を誘ってもいいんだって」
「マジ! 行きたい!?」
ちょっと、あたしはグイグイと前のめりになってしまった。
「それじゃあ、申し込んでおいていい? 実は、わたしも、どう入試勉強していいかよく分からないところがあって。佐々木と一緒だと、色々教えてもらえるかなって」
「まったく、中原、前に参考書買いに行ったとき、どう勉強していいか分からないって言ってたもんな」
「アハハー。まあ、そういうことで、一つ、よろしくお願いいたします」
中原は、ぺこりと頭を下げた。
でも、嬉しいことだ。
予備校の授業を聞けることもそうだけど、それ以上に、こうして中原が、あたしのことを誘ってくれる。
もう、修復不可能かと思うくらいの喧嘩を、あたしの一方的な悪い感情でしかけてしまった。そんなあたしを、誘ってくれたのだ。
「なあ、中原」
「なに、佐々木?」
「中原、模試とか受けてる?」
「うん。学校でやってくれるからね」
「成績、どうなの?」
「うっ。わたしは、大器晩成タイプなので……」
「がんばれよ……」
「晩成社のように、入試勉強を開拓していきます……」
「依田勉三もびっくりだな……」
十勝開拓の偉人を使った冗談を言っているけれども、それはさておき、本当に中原は大丈夫なのだろうか?
まあ今回は、こうしていつも通りのあたし達に戻れたことだけで、よしとしようか。




