第56話 佐々木の看病とお泊り(中原)
佐々木から突然、怒りを向けられてから一週間。
どうして佐々木はあんなに怒っていたんだろう。
赤坂が言いたくない身の上を話してくれた後、わたしなりにフォローしたつもりだった。そりゃ、人によっては、からかっているように受け取ってしまうかもしれないけれど、わたしは赤坂の性格を理解したうえでしたつもりだ。
それだけじゃない。佐々木の言っていたことは、支離滅裂だった。
いったい何なんだよ。
言われた時はショックで、コンビニから駆け出してしまった。
正直、外で泣いてしまった。それは、佐々木がわたしのことを、いい顔しているだけの人間、のように思っていたことがショックだったからだ。
でも、一通り泣いてから、だんだんと佐々木に対して腹が立ってきた。
言い方ってものがあるだろう。最初からけんか腰で。
それに、あの日は、なんだか佐々木、わたしを避けていた。
言いたいことあるなら、分かるように言えっての。
あの日は、コンビニの制服のまま飛び出したものだから、着替えを取りにコンビニに戻るのも憚られて、近くの洋服屋で、安いTシャツを買って帰ることになってしまった。無駄な出費をさせられた。
今日は、まず佐々木に文句を言ってやろう。
ああ、なんだかモヤモヤするし、イライラする。
この一週間、ずっとあの出来事を考えてしまい、夜も眠りが浅くなり、睡眠不足が続いている。
これが文句を言わずにいられるか。
コンビニについた。
入るのにドキドキする。
でも、行くしかない。
そう、まずは佐々木に一発食らわせてやる。
「おつかれ、佐々木!」
わたしは勢いよく佐々木に言ってやった。
「おつかれ……」
佐々木は、横目で私をみた。すでに制服に着替えて、レジの中で一万円札を抜き取る整理作業をしている。
なんだよ、他に言うことないのかよ。
私は、わざと機嫌悪そうにして、事務室に入った。
制服に着替える。佐々木、こっちにこないな。
事務室を出る。
佐々木は、今度は小銭を勘定している。
わたしとは、目を合わせない。
なんだか、ムカッとする。
「あーあ、まったく、今日はだるいなー」
ちょっと、感じの悪いことを言いながら、レジの前に立とうとしたら、近くに置いてあるダンボールに足をつまずかせた。
「ちょ、中原。イライラしてるからって、物にあたるなよ」
佐々木は、わたしがダンボールを蹴ったと思ったようだ。
否定しようとしたが、シカトしてやる。
しばらく、沈黙が続く。
客が何人かきて、帰っていく。
なんだか、疲れる。
休憩の時間がやってくると、佐々木はチラッとわたしを見て、何か言いたそうにしたけれど、結局何も言わずに休憩に入る。
佐々木の休憩が終わると、わたしも、フンという態度で、事務室に入ってやった。
いい加減、何か言ったらどうなんだよ。
休憩していても、安まる気がしない。
なんだよ、佐々木。突然、どうしたんだよ……。
いつもは、あんなに佐々木と一緒のこの時間が楽しかったのに……。
あの時には、もう、戻れないの?
なんだか、こんなの、嫌だ……。
休憩が終わり、レジに立つ。
まばらにお客さんがやってくる。
だいぶん時間がたった。
チラッと時計を見る。
うそ、もうバイト終了の時間が近い。
今日、佐々木とまともにしゃべっていない。
このまま、今日が終わってしまうの?
「ねえ、佐々木……」
わたしはしびれを切らした。
「わたし、一週間ずっとモヤモヤしてたんだよ」
ちょっと媚びているように聞こえるかな?
「でも、佐々木もちょっとひどいよ。あんなにキレて」
わたしから謝るのも、何か違う気がする。
「まずは、わたしのどこが気に入らないのか、言ってよ。そうしないと、わからないじゃん」
返事が返ってこない。
なんだよ、ここにきて、まだシカトする気? さすがに腹が立つ。
「ちょっと佐々木、やりすぎじゃない! ……って、佐々木!?」
佐々木が、その場にうずくまっている。
「ちょ、どうしたの、佐々木?」
「ゴメン……。ちょっと、具合悪い」
顔面は蒼白になっているし、額からは脂汗がしたたり落ちている。
「ちょっと事務室に行こう。横になった方がいいよ」
わたしは、佐々木を事務室に運んだ。
パイプ椅子を並べて、その上に佐々木を横にする。
佐々木は、逆らうことなく、力なく横たわった。
手が冷たい。店内は冷房で冷えてはいるが、その影響とは思えないほどの冷たさだ。
佐々木の額に手を当ててみる。
明らかに高熱だろ。
「ごめん、中原……」
言葉に元気がない。それに、どことなく、声がおかしい。
「もしかして、風邪?」
「うん。昨日から寒気がするなって思ってたんだけど、今日の朝起きたら風邪ひいてた」
「なんでバイトなんてくるのさ」
「だって……」
佐々木は、目をそらした。次の言葉を探しているようだ。
わたしは静かに待つ。
もしかして、先週のこと、何か言ってくれるのかな。
「ちょっと、誰もいないのー? 店員さーん??」
レジの方から客の声が聞こえる。
「あ、ゴメン、佐々木。ちょっと行ってくるね」
まだ勤務時間中だ。
わたしは、レジに急いだ。こんな時にかぎって、客が大勢並んでいる。
わたしを見る視線が突き刺さる……。
「す、すみませんでした」
わたしは、せっせとレジ打ちをする。
そのうちに、次のシフトの赤坂がやってきた。
「あれ、中原パイセン、今日は一人だったんですか?」
「あ、赤坂。佐々木、ちょっと倒れちゃって。ちょっと早いけど手伝って」
「倒れたって……。と、とにかく、手伝います」
赤坂は、レジに大勢の客が並んでいるのを見て、すぐに制服に着替えてレジに立つ。
赤坂のおかげもあり、なんとか、客をさばき終えた。
「赤坂、ありがと……。やばかった……」
「そうですね……。って、どんな状況なんですか?」
「いや、佐々木、風邪なのにバイトに来たみたいでさ。さっき、倒れちゃったんだ」
「えっ! 大丈夫なんですか?」
「わからない。わたし、佐々木のこと、ちょっと送っていくよ」
「そうですか……。あの、中原パイセン」
「ん?」
「仲直り、できるといいですね」
「そうだね」
「中原パイセン、スマホもってますよね」
「うん、持ってるけど」
「気になるので、報告してください」
赤坂は、連絡先を交換しろとばかりに、スマホを取り出した。
「赤坂ぁー。仕事中だぞ」
「まったく、仕事中に夫婦喧嘩に付き合わされるこっちの身にもなってくださいよ」
「うっ、夫婦喧嘩って……」
「違うんですか?」
まったく、なんだよ赤坂。ここはからかうところじゃないぞ。
赤坂と連絡先を交換する。
「それじゃあ、行ってください」
「うん。赤坂、まったくお前は憎いやつだなぁ」
わたしは、赤坂の頭をなでてやった。
「なんですか。頭なでないでください! 調子に乗らないでください。それより、早く佐々木先輩を送ってあげてください。さっき事務室で苦しそうでしたから」
事務室に戻る。
「中原、おつかれ……」
元気のない声で佐々木がいう。
「うん。おつかれ」
わたしは、佐々木の顔を見る。
まったく、先週あんな態度をとったのに、今日はこんなに具合悪そうな顔しやがって。
「立てる?」
「うん」
佐々木は、立ち上がり、ロッカーの中にしまってあった学校の制服に着替えはじめた。
わたしも、その横で、制服に着替える。
「円山女子の制服って、かわいいよな」
ぼそっと佐々木がいう。
「なにさ、急に。気持ち悪」
「いや、だって、デザインいいだろ」
「そりゃ、そうかもだけど。でも、今いうところ?」
「いや、話のきっかけというか……」
「きっかけ?……」
佐々木も、やはり先週のことを気にしているのだろう。今まで通り、ちょっとしたバカ話も、難しくなっている。もちろん、それはわたしも同じだ。そのきっかけを作りたかったのか。
「今日は、帰ろう」
「うん。風邪薬ないから、ドラッグストアに寄っていくよ」
「風邪薬がないって……? 病院は?」
「病院にいくほどでもないって。市販の風邪薬飲めば治るよ」
「お母さん、遅いんでしょ? 弟はいるの?」
「お母さんと弟、親戚の法事があって留守にしてるんだ。あたしは、バイトもあるし、第一交通費もかかるし、留守番することにした」
「はあ? じゃあ、今佐々木一人なの?」
「うん。だから、静かに寝てるよ」
「いや、さっき額に手を乗せたら、熱が相当あったよ。病院行った方がいいよ。マイナンバーカード持ち歩いてる?」
「持ち歩いているけど。病院は贅沢だよ」
「何が贅沢さ。こういう時はちゃんと見てもらうべきだよ。なんのための三割負担制度だよ」
「いや、そりゃそうだけど」
「いいよ、お金がないんなら、わたしが払う」
「それくらいのお金はあるけど。とにかく、大丈夫だから」
まったく、佐々木は頑固だ。このままじゃ、病院に行かずに家に帰る勢いだ。
だけど、佐々木の顔はまだ青い。こういう時には、ちゃんと診察を受けるべきなんだ。
「行くよ、佐々木」
わたしは、佐々木の腕をとる。
「ちょ、中原」
佐々木を無理やり引っ張る。
赤坂がレジからその様子を見ている。
「お疲れ様です」
なんだか、赤坂が笑顔のような気がしたが、それは放っておく。
外は、もう暗くなっている。
「佐々木、かかりつけの病院あるの?」
「そういうのは、ないけど」
「そっか。この近くに内科あったよね。あ、あそこだ。行くよ」
佐々木は、まだ何か言っているが、わたしは佐々木を引っ張る。もう少しで、病院も閉まる時間だ。急がないと。
内科に入る。まだ何人か、順番待ちの人がいる。
佐々木は観念したように、受付でマイナンバーカードを出す。
空いている席に佐々木と隣り合って座る。
「中原、強引すぎ……」
「なんとでも言えばいいよ」
佐々木は、やはり顔が青白い。具合が悪そうだ。
「佐々木、わたしにもたれなよ」
「……」
「ほら」
わたしは、強引に佐々木の頭を、肩にもたれさせる。
しばらく、無言の時間が流れる。
ふと佐々木を見ると、スヤスヤと眠っている。
なんだよ、かわいい寝顔しやがって。
なんだか、わたしの肩で、安心して寝ているような顔を見ると、うれしくなる。
なんで、先週、佐々木はあんなにキレていたのか。聞いてみたいけれど、今は、いいかな……。
しばらくして、佐々木が呼ばれた。
名前を呼ばれると、佐々木はパチッと目を覚まして、案内されるままに、フラフラと診察室に入っていった。
わたし達の後には、受診者はいなかった。佐々木の前に診察を受けた人も、支払いを終えて帰っていった。
しばらく、わたし一人が待合室に残される。
「佐々木さんの付き添いの方ですか?」
受付の人に話しかけられる。
「そうですけど」
「佐々木さん、貧血がひどくて、点滴することになったんです。しばらく時間かかりますけど、どうします? 帰りますか?」
そうか、点滴か。そんなに具合悪かったんだ。具合悪いときには正直に言えよ。やはり、無理やり病院に連れてきてよかった。
このままだと、時間がかかるが、
「はい。このまま、待ってます」
病院のスタッフが、電卓をたたいて、売り上げを計算する音が聞こえる。
発注する物品の個数を確認する声。ナフサ不足で手袋の入荷が遅れていることの相談などが、ぼんやりと聞こえる。
「中原? おーい、中原?」
「!!」
わたしは、目を開けた。
目の前に佐々木が立っている。
左肘に、小さなサビオを貼っている。
どうやら、わたしも眠ってしまっていたようだ。それはそうだ。佐々木のことを考えて、毎日眠れずに寝不足だったんだ。
「点滴、終わったの」
「ああ」
佐々木の顔から、青白さは消えていた。
「ただの夏風邪だって。まだ、熱は少しある」
「そっか」
会計を済ませて、佐々木と病院を出る。
「処方箋をもらったから、隣の薬局で、薬もらえって。行ってくるよ。したっけ、このへんで」
「ううん。一緒に行くよ」
「いや、帰るのおそくなるだろ」
「ここまで来たら、最後まで付き合うよ」
佐々木と一緒に薬局に入る。
佐々木は、受付に処方箋を出して、問診票に記入をしている。
わたしは、スマホを取り出して、お母さんに、今夜は佐々木の家に泊まる、と送った。
なんだか、今日は、佐々木が心配だった。一人にさせたくなかった。
佐々木は、受付の人に、書き終えた問診票を戻した。
やっぱり、佐々木はしっかりしている。しっかり者すぎるだろ。
他に客がいなかったからか、佐々木の薬はすぐに出てきた。
薬をもらって薬局を出る。
「中原、ありがとう。あたし、それなりにヤバい状態だったみたいだな」
「そうだよ。まったく、あのまま家に帰ってたら、どうなっていたことやら、だよ」
「したっけ、今度こそ、また来週だな」
「ううん。今日は、泊まっていく」
「え? 泊まっていく?」
「もう、家にも連絡したし」
「ちょ、なんだよ、急に?」
「ねえ、佐々木……」
「なんだよ、中原……」
「わたしのこと、嫌いになった?」
「……そんなわけ、ない……」
先週の話を思い出させてしまった。
しばらく無言になる。
「なら、いいじゃん。今日は、この中原ちゃんに、すべてを委ねるべきだよ」
わたしは、とにかく元気を装う。
こういうところが、佐々木に嫌われるところなのかな。わたし、おだっているかな?
先週、わたしは佐々木に、みんなに優しそうに振舞って、ポイントを稼いでいる、と言われてしまった。
でも、染みついてしまった、わたしの性格だ。いまさら、どうしようもない。
「ねえ、佐々木、具合悪いところに悪いんだけど、ちょっとスーパーに寄っていこう。栄養あるもの、食べてもらわないとね」
「中原、料理できるのかよ」
「少しくらいならね」
わたしは、ぱっと野菜や卵を買い込む。
あまり佐々木を待たせて、体調を悪化させてはいけない。
すぐにレジで支払いをする。
佐々木は少し出すと言ったけれど、病院に無理やり連れて行って負担させたし、今晩は泊めてもらうのだ。ここはわたしが払う。
佐々木の家に着く。
アパートは、賃料が安いことがすぐに分かる外観だ。
だが、さすが佐々木だ。家の中はきれいに整理整頓、掃除が行き届いている。
「狭いけど、くつろいでて。紅茶でも飲む?」
「なに言っているのさ。佐々木が病人なんだよ。台所借りるね。佐々木は寝ていてよ。先にお風呂に入る?」
「ありがとう。そうだな……でも、ちょっと疲れたから、少し横になるよ」
佐々木は、自分の部屋に入っていった。
よし、では、ここはこのわたしが、腕によりをかけて、栄養たっぷり、おいしいご飯を作ってあげようではないか!
おかゆくらいなら、作れる。
それに、デザートは消化に良いリンゴだ。リンゴは皮に栄養があるから、擦るのではなく、皮つきで小さく切る。
炊飯器にあったお米を鍋でぐつぐつさせる。卵も投入してかき混ぜる。味噌とダシで味を調える。なんということはない、簡単なおかゆは、すぐにできあがる。
佐々木の部屋に様子を見に行く。佐々木は、スヤスヤ寝ている。体調が悪い中頑張って、よほど疲れているのだろう。
バイトには、学校の制服で来ていた。具合の悪い中、北十三条高校にも行ったのだろう。
今は寝せてあげることにした。
佐々木の家だけど、お風呂をいただいてしまおう。
前に泊めてもらった時に入ったので、要領は分かる。
お風呂が焚きあがった。佐々木の家のお風呂は、わたしの家のよりも少し小さい。
体を洗って、湯舟に浸かる。天井から、水滴が落ちてくる。このアパートで、佐々木は育ったんだな、なんて思う。
急にお風呂のドアが開いた。
「佐々木?」
佐々木も、はだかになっている。
「ご、ごめん。具合が悪くてすぐに寝ちゃったから、わたしがいたの、忘れてたのかな。すぐにあがるね」
わたしは、お風呂から上がる。
でも、佐々木が私の腕をつかむ。
「中原……。一緒に、入ろう……」
「ええっ!……」
佐々木が、体を洗いはじめる。
なんだよ、佐々木と一緒!? いや、佐々木には弟がいる。もしかすると、家族と一緒にお風呂に入るなんて、佐々木家では普通のことなのかもしれない。その流れで、人と入ることが、普通なのかも。
修学旅行でも、大浴場に友達と一緒に入るじゃないか。うん、別に変なことではない。自然なことだ。
佐々木の体を見る。
スレンダーな体型で、どこか筋肉質だ。
頭からシャワーを浴びると、茶色い髪が肩や背中に水を導く。
「これだけ湿気があるから、たぶん、病気、うつらないと思うから」
佐々木が、湯舟に入ってきた。
ううっ。佐々木って、やっぱりきれいだ。
艶のある肌。やわらかそう。目つきが悪い顔立ちも、よくみると、モデルにだってなれそうだ。
前から佐々木は美人だと思っていた。
どこかのスタンのつく国の出身の父親をもつからか、外国人風の顔立ちと体型で、ただでさえスタイルがよい。そこに、佐々木の日々の努力が加わって、美しい肉体を作りだしている。
髪の毛が濡れているし、顔はほてっている。甘美とは、こういうことをいうのだろうか? 見とれてしまう。
「中原……」
「ひゃい!!」
変な声になってしまった。
「先週、あたし、中原にひどいこと言った……。許してもらえないかもだけど……ごめん……」
佐々木からの急な謝罪だ。わたしが見とれていたところに。まったくズルいやつだ。
「でも、どうしたのさ。あの時、尋常じゃなかったじゃん」
「……ゴメン」
「理由、教えてくれる?」
「…………」
佐々木は、しばらく黙っていた。
「言いたくなければ、無理しなくて、いいけど……」
もちろん、あの理由は知りたい。でも、佐々木と仲直りできるなら、それだけでもいい、と思う。
またしばらく、沈黙が流れる。
知らなくても、いい。だけど、やっぱり、知りたい。このまま、うやむやになったら、佐々木とは仲直りできるかもしれないけれど、それ以上先にはいけないような気もする。それ以上先? それって何? いや、とにかく、だ。
「教えて、ほしいな……」
わたしは、つぶやいた。
「うん……」
佐々木は、大きく深呼吸をした。
「中原、みんなに優しいのかなって思ったら、なんだか、嫌になった」
「どういうこと?」
「あたし……、中原があたしにだけ、特別な気持ちで接してくれるって、勝手に思い込んでいたんだ。そんなわけないのに。そんな身勝手な思い込みをして、それが違ったとたんに、暴走しちゃったんだ」
「???」
話がよく分からない。わたしが、佐々木に特別な気持ちで接している? それって、どういうこと?」
「要はさ、あたし、中原と特別に仲がいいポジションだって、勝手に思い込んでたんだよ。あたし、中原の、ただの一人の友達に過ぎないのにさ。これだから、あたしダメなんだよ。ネクラ乙ってやつだよな。草はえるだろ?」
「そっか……」
なんだよ、佐々木。やっぱり、かわいいやつじゃん。
ふーん。佐々木、わたしのこと、そう思ってたんだ。
「ねえ、佐々木」
「なんだよ、中原」
「わたし、佐々木のこと、結構特別視しているんだよ」
「えっ?」
「佐々木といる時は、素のわたしを出せるし。なんか、安心するし。それに、気づいてよ……。特別に思ってなかったら、病院について行ったり、こうして心配して家にきたりしないって」
「…………」
「まったく、佐々木は、分かってないなぁ。って、佐々木?」
「そっか……そうだったんだ……」
「えっ、佐々木、泣いてる?」
「う……ん……」
佐々木は、手首で涙をぬぐう。
「そこは、目に汗が入ったとかって、ごまかすところじゃない?」
まったく、佐々木は正直なやつだ。
「あたし、中原が赤坂さんに親切にして。それで、こういう親切なことするのは、あたしだけじゃないんだって、嫉妬しちゃって」
ううっ……。既視感がある。わたしも、前に、佐々木が涼風さんのことを褒めるあまり、嫉妬をしてやらかしてしまったことがある。
「ごめん。あんなひどい態度とっちゃって。この一週間、ずっと謝ろうって思ってたけど、メールも電話も、勇気がでなくて……」
「そっか……」
「中原のこと考えると、夜も眠れなくなって……」
なんだよ、それ。恋人かよ。ていうか、それが原因で、風邪ひいたんじゃないの?
「まったく、それで体調崩すなんて、世話がかかるな」
「なあ、中原……」
佐々木が、涙をためた顔で、わたしを見る。
「あたしのこと、許して……くれる?」
ううっ。なんだよ、この顔。
美少女の涙は武器っていうけれど、まさに、それじゃないか。
いつもは強そうに見える佐々木が、こんなに弱弱しい表情でわたしを見てくるなんて。
心臓がドキっとする。
「まったく、仕方がないなぁ……」
わたしは、たまらず、立ち上がった。
「そろそろあがろう。長く入ると、のぼせちゃうよ」
佐々木と向き合って、おかゆを食べる。
佐々木のスウェットを貸してもらったが、ほんのりと佐々木の香りがする。
さっきのお風呂での佐々木の顔を思い出すと、なんだか佐々木の香りを意識するたびに、ドキッとしてしまう。
なんなんだろう、この気持ちは。落ち着け、わたし。
「なあ、中原」
「なに……佐々木」
「おかゆ、おいしい」
「うん。そうだろそうだろ。この至高の料理人中原ちゃんにかかれば、どんな美食も太刀打ちできなくなるのだよ」
「言ってろ」
おいしそうに食べてくれる佐々木を見ていると、なんだかうれしくなる。
こういうのが、至福の時間、なんていうのかな?
「喧嘩、しちゃったな……」
「うん。でも、なんか、佐々木とは、一度、ほんとうに関係にヒビが入るような喧嘩をすることになるような気がしてたんだよね」
「そうなのか?」
「うん。まあ、これが、今後のわたし達の関係性を左右する、試練ってやつなんだろうね」
「試練か。乗り越えられたかな?」
「乗り越えられたんじゃない?」
「そうだな」
「さあ、食べ終わったら、薬飲んで、早く寝ろよー」
「ああ。そうさせてもらう」
佐々木は、コップ一杯の水で、グイっと薬を飲み干した。
「したっけ、あたしは寝るよ」
「うん。わたしも、まだ早いけど、寝るね」
「なあ、中原」
「なに、佐々木」
「大好きだよ」
「わたしもー。しったけ、おやすみ」
電気を消した。
横になる。佐々木の吐息が聞こえてくる。あっという間に寝てしまったようだ。風邪の時には寝るに限る……。
って、大好きだよって、何!? いや、友達としてって意味だよね。それ以外、ないよね。
平静を装って、普通におやすみを言ったけど、佐々木ならではの友情表現だよね!?
なんだか、佐々木が言った、大好きだよ、が、頭の中で、無限ループをたどっている。
今夜もわたし、眠れないかも……。




