第54話 いつもと違う佐々木?(中原)
それにしても先週は驚いた。
佐々木と一緒に見ていたローソクもらいの一団が、赤坂の入所するライラック学園だったとは。
ライラック学園は、以前、円山女子高校の慈善活動の一環で訪問したことがあるので、どういう所かを知っている。
要するに、児童養護施設で、親や親戚がいなかったり、都合で親と暮らせなかったりするような子ども達が暮らしている施設だ。
赤坂が、そこに入所していたとは。
赤坂は、あっという間にコンビニバイトの仕事を覚えた。
もともと、佐々木が万引き犯を、歌舞伎の真似事……? で捕まえたのを見て、佐々木に憧れて、このコンビニでのバイトを志したという。働くためのイメージトレーニングを積んできたようだ。
赤坂は、わたしには突っかかってくるけれど、なんだかんだで根はいいやつだ。
そんな赤坂は、先週会ってしまったとき、自分の身の上を、あまり話したくはないようだった。
もちろん、赤坂が話したくないのならば、詮索するつもりは毛頭ない。
赤坂からすると、偶然知り合いのわたしや佐々木に、児童養護施設の入所者だということが知られて、微妙な心持ちになっているだろう。
偶然とはいえ、わたしもちょっと心がキュッとなった。
「ねえ佐々木、赤坂の様子どうだった?」
「いや、今週は赤坂さんとは一緒のシフト無かったから、よく分からない。中原こそ、どうだった?」
「わたしも、今週は赤坂とのシフトがなくってさ」
「夏休みシーズンの変則的なシフトになってるからな」
「そうなんだよね。わたしなんて、ほとんど渡辺のババアと一緒のシフトにあたっちゃってて、最悪だったよ」
「それは、ドンマイだな……」
「まったく、どこの大学受けるのーとか、将来は外国で働くのーとか……」
しばらく、沈黙が流れる。
いつもは、楽しいはずの、佐々木とのコンビにバイトの時間なのに、今日は妙にぎこちない。
佐々木は、どこか元気がなく、その後、わたしが投げた会話に対して、やや上の空という感じだ。
「やっぱり、佐々木も、赤坂のこと心配?」
「えっ? ああ、そうだな」
当然だ。佐々木も赤坂のことが心配なんだ。
ただ、そうはいっても、ここに赤坂はいない。
いない人のことを心配しても、どうにもならない。
「ところでさ、前に佐々木、万引き犯を捕まえたじゃん。赤坂はそれがきっかけで、ここのコンビニでバイトするようになったわけだけど」
「そんなこともあったな」
「わたしの友達がさぁ、香港に行ったらしいんだけど、そこのコンビニに、無人の店があったらしいんだ」
「そうかー」
「入り口でクレジットカードをかざすと中に入れて、あとは商品を好きなだけ取って店を出るだけ。それだけで、支払いが完了するんだって」
「未来だなー」
「もう、万引きのしようがないよね」
「だなー」
「難しいよね。前に釧路に行った時は、飯場のねーちゃん、地域の人たちととても仲良しって感じだったじゃん。ああいう地域密着っていうのも、必要かもしれないじゃん」
「そういうのもありかもなー」
「でもさ、その友達、香港の隣の、中国の深圳ってところにも行ったそうなんだけどね、そこで自動運転のタクシーにも乗ったんだってさ」
「自動運転のタクシーかー」
「もう実証実験どころの話しじゃなくて、何十キロも、普通に走行してるんだって」
「未来だなー」
「今日二回目の未来だなー、だよ。とにかく、世界はAI全盛期なんだよ」
「そうかもなー」
「わたし達の仕事なんて、簡単にAIに置き換わっちゃうかもしれないよ」
「だなー」
「まったく、わたしたち学生の働く権利はどうなるんだろうね」
「だなー」
「ここは、ストライキに持ち込んで、労使交渉をしないといけないよね」
「だなー」
「ピケをはれー……」
「だな-」
「…………」
「…………」
なんだか、佐々木は、昭和の壊れたロボットみたいに、同じことしか話さない。
ちょっと、いくら赤坂が心配だからって、この受け答えはないんじゃない、と、少しむっとしてしまう。
「やーい、佐々木のでべそ-」
「ああん?」
「なんか、佐々木、昭和のロボットみたいになってるよ?」
「いや、ちゃんと聞いてるし」
「ううん。さっきから、上の空で、どうしたの?」
「……なあ、中原」
「なに?」
「中原って、みんなに対して、優しいの?」
「えっ? 一体何の話?」
「あ、いや、悪い。えーと、別にいいんだ」
「いいんだじゃないよ。何の話しさ?」
「えーと……、先週中原、赤坂さんのこと、すごくフォローしてただろ」
「それはそうだよ。じゃないと、場の空気、凍ってたじゃん」
「いつも、あんな感じなのかなって」
「うーん、まあ、これもお嬢様学校を生き抜くための術ですからね」
「そうか……」
「まあ、こういうコミュ力高めの中原ちゃんですからね、このコンビニで浮いていた佐々木さんとも、すぐに打ち解け合えたってことですよー」
わたしは、わざと、胸を張って誇り高そうな態度をしてやった。
「そうか……」
あれ、なんか、佐々木、顔を背けた?
「いや、そうだよな、中原! えーと、友達が香港と中国に行ったって話しだっけ? いいよな、海外旅行。あたしも、行ってみたいな。あたしは歴史のあるところがいいな。インドとかエジプトとか」
佐々木が、急に饒舌になる。一体、どうしたんだ?
まあ、元気になったのならいいけれど、でも……。
「原油高、まだ続いているから、航空機代高そうだよな。日本の航空会社じゃなくて、外国の航空会社使った方が安いのかな。それよりも、英語を勉強しなくちゃな。ツアーよりも個人で行った方が断然安いって聞いたことあるからさ。そのためにはまず語学力だよな」
いつもの佐々木なのだが、どうしてだろう、どこか、雰囲気が違う感じがする。
どうしてしまったのだろう?
なんだか、いつもとは違う、妙な空気の、佐々木とのバイトになってしまった。




